異世界組のクリスマスイブ

●SIDE：ミリシラ　12/24　10：12　コネサンス魔法学園教員棟　ミリシラの研究室 あーあ・・・くっそ退屈じゃのう。地球人相手に適当な魔物狩りの様子でも発信しようかのぅ・・・。ん？誰か来たな。 「ミリシラ先生、失礼します。・・・なんですかそのやる気無さそうな顔」 おーヒマリか。いやな、何か面白い事無いかと思ってのぅ。地球人に発信するネタも微妙じゃし。 「あー、地球人は今日忙しいですよ。クリスマスイブですから」 あ？何じゃいクリスマスイブって。 「ああ、ありませんもんねこっちの世界。ざっくり言うと、宗教的な偉人の降誕祭だったものがだんだん大衆化して、ただのお祭り騒ぎになったものですね。特に祝日って訳じゃないんですが、クリスマス商戦とかであちこちで限定品のセールをやったり、赤・緑・白・金をクリスマスカラーと位置付けてその色で街を飾ったりと盛り上がるんですよ」 はーん・・・じゃあ発信してもあんまり見てくれんのか。つまらんなぁ。 「クリスマスは24日がイブ、25日がノエルと呼ばれますね。で、このクリスマスは多くの恋人たちや子供たちが楽しみにしてるんです。恋人同士は甘い時間を過ごし、子供はプレゼントを楽しみにワクワクして眠りにつくんですよ」 プレゼント？なんかもらえるんか？ 「そっか、ミリシラ先生はサンタクロースご存じないんですね。ええとですね、24日の夜から25日の朝までの間に、サンタクロースという存在が眠っている子供たちの枕元におもちゃとかを持ってきてくれるんです。赤地に白いファーで縁取りされた厚手の服を着て、プレゼントの入った大きな袋を背負っている姿が地球じゃ有名です」 えっ、枕元に来るんか！？部屋に侵入するって事じゃないか！ 「そうですね、煙突さえあればどんな家でも入り込めるそうです。まあ、普通に玄関から来るパターンもあるらしいですが。まあ、良い子にプレゼントをくれる存在なので悪さはしませんよ」 それ、良い子じゃなかったらどうなるんじゃ？ 「あっ、それはですね。悪ガキはプレゼントをもらえないで、逆に大きな袋に入れられて連れ去られてしまうんですって。あと、夜更かししていてサンタクロースを見てしまった子もです」 普通に誘拐じゃろ！もうそういう魔物じゃないかサンタクロース！ 「魔物って・・・まあ、常識の通用しない存在ではありますね。一晩で世界中の子供たちを訪ねて回る訳ですから。ミリシラ先生も、見た目は子供ですからもしかしたらサンタクロースが来るかも知れませんよ？」 ・・・は、ハッハッハ！なーに言っておるか！今までそんな奴の話聞いた事ないわい！この世界にサンタクロースなどおらん！ 「いや、分かりませんよ？この一年の間に、時空の裂け目から密かにこっちに来てたりして。そして今夜、いよいよ子供たちの所に行く準備を着々と進めているかも。ミリシラ先生、今日は念のため早く寝た方がいいですよ。見ちゃったら『連れて行かれ』ますよ」 ふ、ふん！ワシがそんな与太話を本気にするとでも思うたか！もうよいわ、ヒマリ。お主本来の用事は何なんじゃ。 「あ、生徒たちのレポート集めてきたので。この机に置いておきますね。それじゃ、失礼しました」 ・・・行ったか。・・・ひ、ひ、ヒマリのバカモノ～！何であんな怖い話するんじゃあ！今夜寝れなくなったらどうするんじゃ～！み、見ちゃうぞ、ワシサンタクロース見ちゃうぞ！？連れて行かれたくないのじゃ～！ ●SIDE：ラファエル　12/24　14：23　王都立教会　大聖堂 サイトさん、サンタとはこれでよいのでしょうか？ 「はいラファエル様、とても可愛らしいサンタクロース衣装です」 地球ではクリスマスという日にこのような格好をするのが伝統なのですね。仕立て屋さんにお願いしたのが間に合ってよかったです。 「ええ、その恰好で子供たちにプレゼントを配る催しは例年盛り上がりますよ。明日教会に来た子供たちに、そのお姿でお菓子を配ってさしあげれば、皆大喜び間違いありません」 一年良い子にしていた子供たちにプレゼントを配る・・・なんて素敵な考えでしょう。ですが定着させるには時間が必要かもしれませんね。こうした文化は今まで経験のない方がほとんどのはずです。 「地球とこの世界、どちらも同じ人間の住む世界です。この世界の人々にとって不謹慎でないのなら、地球のイベントだってきっと楽しんでもらう事ができます。我々聖職者は人々の平和と幸福のために生きる者。こういったものはどんどん普及させていきたいですね」 ふふ、その通りですね。ところで、サンタクロースの伝承はお聞きしましたが、本来は夜中に子供を訪ねるものなのですね。 「はい。ですが、いきなりラファエル様が町中の子供を夜中に訪ねたりしたら騒ぎになってしまいますからね。伝承通りにする訳にはいかないでしょう」 う～ん・・・あっ、そうです。それなら一人だけ・・・ミリシラ様をお訪ねしてはどうでしょう？ 「ほう、ミリシラ様をですか？」 はい。ミリシラ様も見た目は子供、ですが子供に交じってイベントを楽しむには抵抗があるでしょうから。ラファエルサンタが一足早くミリシラ様にプレゼントをお届けするのなら、ミリシラ様もクリスマスの雰囲気を味わえるのではないでしょうか？ 「大変素晴らしいお考えでございます。ミリシラ様なら、夜分にお訪ねしたとしてもお怒りにはならないでしょう。何をお贈りするのですか？」 私の祈りをたっぷりと込めた聖水です。ミリシラ様は危険地帯に出向く事も多いので、お守りとして持って行っていただければよろしいかなと思いまして。 「さすがはラファエル様。完璧なご提案です。喜んでいただけるといいですね」 ふふ、今夜が楽しみですね。