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【春のピクニック】秘密
※例によって404エラーが出て私が作品ページにアクセスできなくなったので再投稿。閲覧してくれてた方すみません。 「風が気持ちいい丘ね」 私は町外れのなだらかな丘陵地帯を歩く。後ろからは理久津美空と花畑梨々花がついてきていた。今日は彼女たちに誘われ、ピクニックに繰り出したのだ。 「オレはあんまり来ねェけどな。見ての通りインドア派なんでね」 「だけど楽しむ意思はあるのでしょう?いつも着けているヘッドフォンを置いてきているじゃない」 「ハッ、そりゃそうだ。何か行動するなら半端なのが一番良くねェ。いつもの日常と今やってる事、気持ちがどっちつかずじゃ楽しい面も見えて来ねェしストレスばっかり溜まるだろうが」 美空には独自の理屈という物があるようで、いちいち自分の行動を論理的に納得したがる。弱さや隙を見せたくない、という意志を感じる。つまり彼女の内面には何か弱い部分があると推察できる。 「す、菫ちゃぁ~ん・・・美空ちゃぁ~ん・・・待ってよぉ~」 サンドイッチの入ったバスケットをよたよたと運びながら梨々花がか細い声で先行する私たちを呼ぶ。なぜ彼女がお弁当を運んでいるかと言えば、じゃんけんに負けたからだとしか説明しようがない。 「オラ花畑、もうちっとで目的地だろうが。だらけてねェでさっさと運べや」 「帰り道覚えてろー!絶対帰りは美空ちゃんにこの重たいバスケット持たせてやるんだから!」 「アホ、帰りは中身を食って軽くなってんだろ。損するのはおめぇだけだよ」 「ガーン!」 他愛もない会話。今日は黄場朝霞は来られなかった。気候の変化で体調を崩したらしく、ここに来る前に3人でお見舞いもしてきた。マジカヨフィジカルへの変身後はあんなに強化されるというのに、変身前は一番貧弱なんて皮肉なものだ。 「ほら花畑さん、頑張って頂戴。あと100mも無いから」 「うひぃ~」 それから少しして、私たちは目的の丘の上に着いた。レジャーシートを広げて、さっそく飲み物とサンドイッチに手を付ける。 「いっぱい歩いた後だから何かおいしく感じる!」 「ケッ、体がカロリーを消費したから摂取に貪欲になってんだろ。けど慌てて食うなよ、喉につまっても助けてやらねェからな」 「むぐ!?むー!むー!」 「言った傍からよォ!」 梨々花の背中を叩く美空。何だかんだ面倒見は良い。いや、単純にここに救急車を呼ぶ方が面倒くさそうだからかもしれないけれど。 「花畑さん、お茶をどうぞ」 「ん!」 苦しそうな梨々花に水筒を渡す。それで何とか梨々花は持ち直し、朗らかに笑って見せた。全く、魔法少女というものは誰か一人はそそっかしい人間が仲間内にいないとダメなのだろうか。 その内に私たちはサンドイッチを食べ終わり、食後という事もあって風に吹かれてゆっくりする。私は二人に表情が見えないように座り、思案に耽る。 (マジカヨの事は少しでも探っておかないといけないからと誘いに応じたけれど、今日はあまり収穫が無いかも知れないわね。ただ、人となりを知っていれば対立した際にも対処を練りやすいのは間違いないから、このまま日常の中では友人関係を演じさせてもらいましょうか。私の目的のためには、ヤバーイの連中もマジカヨ3人衆も敵に回す可能性がある。今は様子を伺いつつ、適度に戦いの中でも実力を探らないと) そんな事を考えていると突如、二人がびくりと反応した気配がする。通知を振動のみにしていたようだけど、二人同時という事は恐らくヤバーイが出たのだろう。二人の方を振り向くと、顔を見合わせて話し合っていた。声は聞こえないが唇の動きは読み取れる。 「どうしよう美空ちゃん、菫ちゃんだけ置いていくの不自然過ぎるよね!?」 「だな。チッ、面倒なタイミングで攻めてきやがって」 二人は、私がマジカヨクリティカルだと言う事を知らない。私がマジカヨリリカルとマジカヨロジカルの正体を知っている事も知らない。だから何とかして私を誤魔化し、この場を離れる口実を考えているようだ。この間のひどい言い訳のようなものが今日も飛び出すのか少し興味はあるけれど、とりあえず助け舟を出してあげるか。 「花畑さん、理久津さん。せっかく気持ちのいい自然の中にいるのだし、少しそれぞれ自由行動にしましょう?30分くらいしたらまたここに集合でどうかしら」 「オレはそれでいいぜ。花畑、おめぇはどうする?」 「私も賛成!」 渡りに船と飛びついてきた。私は二人に背を向けて、少し離れた岩陰に歩いていく。するとかすかに「「チェンジ!マジカヨ!」」と声が聞こえ、二人が町に向かって飛んでいく気配がした。 「全く、慌ただしい子たちね。・・・ジャッカル、聞こえてる?」 私が独り言のように呟くと、頭の中に私に力を与えた存在『ジャッカル』の声が響いてきた。 「ああ、状況は把握しているのジャ。クリティカル、今日はマジカヨに加勢する方針で行くのジャ」 「今日はヤバーイを泳がせなくていいのね。でも加勢まで必要かしら?」 「今日はフィジカルが戦えないのジャ。あの二人ではそれなりの確率でピンチに陥ると予想できるのジャ」 まあ確かに、マジカヨの戦闘力はフィジカルに依存する部分がかなりある。まだリリカルとロジカルは未熟な魔法少女だ。ジャッカルの不安は当たるだろう。 「任務了解。チェンジ、マジカヨ」 私が唱えると、マジカヨクリティカルの力が全身に溢れ出し姿は魔法少女のそれへと変化した。 「紫天を駆ける影一つ、マジカヨクリティカル。主命の為に舞い忍ぶ」 さて、今日の敵はどんな怪物だろうか。ナイフが通用する相手だといいのだけれど。まあでも何より、マジカヨ達に正体を知られないようにするのが第一。私の目的はまだまだ叶いそうにないのだから。秘密は隠して秘密を探る、それが忍者たるものの正しい姿だ。 「ところでクリティカル、お主忍者じゃなくて魔法少女なんジャ・・・。まあ百歩譲って忍者系魔法少女だったとしても、その口上必要なのジャ?」 「必要に決まってるでしょ。その方がかっこいいじゃない」