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アニメマラソン ~ブロント少尉、走る~
訓練の終わり、福井君は汗だくになりながらも最後まで食らいついていた。 その姿に目を止めた金髪ポニーテールの少女少尉――ブロント少尉が、興味深そうに歩み寄る。 「貴様は意外に、なかなか根性があるな。休日は何をしている?トレーニングか?マラソンか?」 福井君は、眼鏡を曇らせながらうつむいた。 その頬は真っ赤に染まり、しばらくもごもごと言葉を探す。 「ぶっ、ぶくは…………アニメマラソンを…………」 「うん?」 ブロント少尉は一瞬きょとんとする。 福井君の背後には、脳内イメージがふわっと広がる。 ソファに寝転び、山盛りの菓子と飲み物を囲みながら、夜通しアニメを連続視聴する休日の姿……! だが――。 「なに、アニメマラソン!!それは興味深い!!!」 ブロント少尉の脳内に広がったのは、まるで違う光景だった。 それは、キラキラと輝く魔法少女たちが、コスプレ姿で走り、必殺技を繰り出しながら40kmを駆け抜ける、勇壮なるマラソン大会だった! 「ならば我々もそれに倣うべきだな!」 目を輝かせ、拳を握る少尉。 ――翌朝。 日の出前の集合場所に現れたのは、赤を基調とした軍服ベースのプリーツスカートに、キラキラしたステッキと謎のシールドを装備したブロント少尉だった。 長い金髪ポニーテールが、朝日にきらめいている。 「さあ、福井! そして……富士見軍曹、貴様もだ!!」 隣には、青を基調とした同様の軍服魔法少女スタイルで、黒髪ボブの小柄な美女、富士見軍曹が立っていた。 だがその表情は引きつり、顔は羞恥で真っ赤。 今にも涙がこぼれそうだ。 「な、なんで私までぇ……!」 福井君も、等身大の猫とも犬ともつかない着ぐるみマスコット(なぜか眼鏡付き)を身にまとい、汗だくで必死に立っている。 だが、逃げ場はない。 そして――。 彼らは走り出した。 街中を、早朝の通勤者たちの冷たい視線を浴びながら、コスプレ軍団が40kmを駆け抜ける! 沿道では人々が振り返り、ざわめき、ついには後ろ指を指しながら囁く。 「見てあれ……」「なんの罰ゲーム?」「可愛いけど、やばい……」 羞恥とプライドと、そして根性だけで、3人はひたすら走り続けた。 途中、必殺技のポーズをキメるブロント少尉。 ステッキを天に掲げ、「ミリタリィ・ハート・シュート!」と叫びながら前進する彼女を、福井君と富士見軍曹は必死で追いかけた。 こうして―― 彼らの休日は、誰にも真似できない、熱く痛い「アニメマラソン」となったのだった。