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「温もりの弁当、冷めたら味わい」 ――ブロント少尉とランチジャー騒動記――

その日、ブロント少尉は士官学校の資料室で、ふと手にした一冊の本を読んでいた。 『日本の食文化――弁当という知恵と美意識』。 「なるほど……お弁当は“冷めても美味しい”って、すごく実用的で、それでいて繊細な文化なんですね……。それに“炊きたて信仰”って……ふふ、五感を大切にする日本人らしさ、素敵です」 ページをめくる手は真剣そのもの。 教官の顔から離れ、そこには一人の純粋な知識欲に燃える少女の表情があった。 「……これが、“食”にかける精神性……私も、見習わないと」 休日、ブロント少尉は街を一人で散策していた。春風が心地よい午後。軍服ではなく、水色のシャツに白いスカート、ちょっとしたおしゃれを楽しむ私服姿。 と、ふと道端の工事現場に目をやる。 「……ん?」 作業員たちが銀色の筒から、湯気の立つご飯やおかずを取り出していた。香ばしい匂いとともに、ほかほかの湯気が立ち昇る。 「もしかして……ランチジャー!?」 目を輝かせてフェンス越しに近づくブロント少尉。 「こんにちは!あの、それ……ランチジャーですよね?どうしてあんなに温かいままなんですか?保温機構……真空断熱……!?すごい技術ですっ!」 おっちゃんたちは突然のハイテンション少女にたじたじ。 「あ、ああ……ホームセンターで売ってるやつだよ……」 茂みの陰から、ひとりの小柄な女性がじっと見ていた。 クールな目元と、凛とした佇まいの美女――富士見軍曹である。 「……また少尉が変なことに目覚めたか」 数日後、ブロント少尉は春の公園にいた。 今日は、ブロント少尉が仲良くしている友人、**筈木葉月(はずき・はづき)**さんとのピクニックだ。 葉月さんは小柄で、茶色のロングヘアが印象的な美少女。物腰は柔らかく、ちょっぴり天然。 けれど芯はしっかりしていて、時にブロント少尉の突飛な言動にツッコミを入れながらも、優しく見守ってくれる大切な存在だ。 士官学校とは別の高等教育機関に通う彼女とは、たまに休日にこうして会うのが楽しみなのだという。 彼女の服装は、春らしい水色に白の水玉模様のワンピース。 髪も軽く巻いて、普段とは違う柔らかな雰囲気を纏っていた。 「葉月さんっ、お待たせしました!」 「アンジェちゃん、すごく似合ってる!可愛いよ」 「えへへ……ありがとうございますっ。今日はですね、ちょっと特別なものを持ってきたんです!」 カバンから慎重に取り出したのは――銀色の巨大な筒。 ずっしりとした存在感。明らかに“弁当”のイメージからは逸脱している。 「……え? これ、お弁当……?なんか……ボンベ?」 葉月さんが首をかしげるその瞬間――! ザッ! 風を切って、茂みから黒影が飛び出す! 「少尉、手を離して」 「えっ――え?軍曹?!」 富士見軍曹がランチジャーをスッと奪い、片手で軽くブロント少尉の額を小突いた。 「でこぴんです。目を覚ましなさい」 ーーぴよぴよ……ーー 頭の上で黄色い小鳥がくるくると回る。少尉、気絶寸前。 富士見軍曹は、懐から取り出した華やかなお重をそっと少尉の膝の上に置き、また素早く茂みに戻っていった。 「……え? なに、今の……忍者?」 葉月さんの頭上には大きなはてなマークが浮かんでいた。 お重の蓋を開けると、そこには彩り豊かで美しい和食弁当。 煮物、卵焼き、鮭の塩焼き……すべてが丁寧に詰められていた。 「……すごい、綺麗……!」 「いただきますっ!」 二人は並んで、美味しそうにお弁当を頬張った。 「やっぱり……美味しいって、最高ですね」 「うん、美味しいは正義だよ」 一方そのころ、茂みの中では―― 富士見軍曹が、奪ったランチジャーの蓋を開けてつぶやいた。 「ふふ……味付け、悪くないじゃない。やるわね、少尉」 静かに、しかしどこか嬉しそうに一口運ぶ彼女の顔には、珍しく柔らかな笑みが浮かんでいた。

さかいきしお

コメント (3)

みやび
2025/04/24 08:15
Crabkanicancer

なにはともあれ美味しいは正義!

2025/04/24 06:04
えどちん

え?軍曹さん?

2025/04/24 05:49

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