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進め!!ホーリー・レイダース!! ~奇跡のランチボックス~

荒野を、ギシギシと音を立てながら進む三人乗り自転車――通称《ホーリーサイクロン号》。 チャーリーのシルクハットは風に煽られながらも奇跡的に飛ばず、ダキニラのしっぽはバランスを取るように左右にピコピコと揺れている。 リリスは、黒い修道服の裾がはためくのも構わず、無言でペダルを踏む。 「……おなか、すいた……」 「空腹は判断力を鈍らせるよ、諸君。わたしの計算によれば、あと2時間で幻覚が見える」 ついに耐えかねて、ダキニラが地図をくしゃっと丸めた。 「こうなったら……森に行って、なんか食べられそうなもの探すしかないっしょ!」 誰も異を唱えず、自転車はガタゴトと森へ方向転換した。 が――その森は“地図にない森”だった。 彼らホーリーレイダースは、都市の探索や古代遺跡の侵入にはめっぽう強い。 全員盗賊で、プリーストというとんがったメンバーだ。 交渉、分析、罠解除、調査――それらには事欠かない。 だが、 自然との対話は、少々無理があった。 入るやいなや、空気は冷え、ねばつく霧が足元にまとわりつく。 モンスターの気配にリリスが僅かに目を細め、チャーリーが杖を構える。だが、何も襲ってこない。 それでも。 「……でも、なんかいい匂いするね?」 ダキニラが鼻をひくつかせた。 「匂う……! これは、ベーコンエッグ! いや、牛串! いやいやこれは、三段重のおせち弁当……!?」 「……空腹と渇きで幻覚見始めたな。もうだめかもね」 リリスが棒読みで言った、そのとき。 視界に飛び込んできたのは―― 苔むした倒木の上に敷かれたレジャーシート。 そこには神々しきまでに盛られた豪華なランチボックス。 ハムにローストビーフに肉団子、黄金色のチキンライス、果物、そしてデザート。 五人前? いや、十人前はある。 「……これは、夢?」 チャーリーが、食欲にうるんだ目でつぶやく。 「おーっ、なんかみんな揃ったー!」 声の主は、白と緑の服にプレートアーマーを重ねた、小柄で頼もしきドワーフのプリースト――チェルキー。 「わたしが作ったお弁当、よかったら一緒に食べない? このへん、迷いやすいでしょ」 その隣には、クマ耳とふわふわの毛皮上着をまとった美少女――プーにゃんが、大量のパンを抱えてにこにこと笑っていた。 「みんな、ぐうぜんクマ~。おなかすいたなら、いっしょにたべるクマ!」 ダキニラの尻尾が喜びの舞いを打ち、チャーリーは「神よ……この奇跡に祝福を」と呟いた。 リリスは胸元のホーリーシンボルにそっと指を添え、小さくつぶやいた。 「……恩は、忘れない」 「ふふっ、リリスちゃんらしいね」 チェルキーは分厚いサンドイッチを手渡しながら笑う。 「じゃ、いただきまーす!」 「いっただきまーすクマ~!」 そして、束の間の昼食が終わり―― 森の出口まで見送ってくれたチェルキーとプーにゃんに、三人は改めて頭を下げた。 チャーリーが帽子を胸に当て、かしこまった仕草で言った。 「貴女たちの料理と友情、しかと胸に刻みました。次はぜひ、リリス殿のお店にお立ち寄りを」 「こら!!」 しれっと言うチャーリーをリリスが小突く。 ダキニラも、手をぶんぶん振りながら叫ぶ。 「ありがとねー! チェルキー、プーにゃん、また一緒にお仕事しよーねー!」 リリスは一歩下がったところから、短く言った。 「助かった。……また、王都で」 チェルキーとプーにゃんも、笑顔で手を振る。 「じゃあまたね~! 今度はちゃんと食べ物持っていってね~!」 「またいっぱい食べるクマ~!」 ホーリーサイクロン号がギシギシと音を立てて荒野を進みはじめる。 その背を、朝霧の中ふたりは見送っていた。 ――ホーリーレイダースの冒険は、これからだ!

さかいきしお

コメント (7)

Ken@Novel_ai
2025/04/23 20:24
えどちん
2025/04/23 20:05
Crabkanicancer
2025/04/23 19:47
謎ピカ
2025/04/23 19:31
なおたそ
2025/04/23 17:53
みやび
2025/04/23 16:46
Cocteau
2025/04/23 16:05

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