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黒金の銀輪特攻(シルバー・アサルト)
「俺の下のチュー坊どもが、銀輪部隊とか名乗ってチョーシこいてんだよな……」 「しめてやっか」 ──その声は、夕暮れの商店街に響いていた。バイクの傍らでタバコを吹かす二人のヤンキー。 だがその言葉に、ひとりの金髪ポニーテールが静かに立ち止まる。 「銀輪部隊……その話、詳しく聞かせてくれないかしら」 「ひ、ひいっ!! 黒金堕天使!!」 「せっ、ブロント先輩!! よ、喜んで!!」 ──黒軍服にプリーツスカート、異様なオーラを放ちながら凛と立つその少女は、例の陸軍少尉、アンジェラ・ミカエラ・ブロント少尉であった。 「日本軍は……昔は今ほど機械化されていなかったのよね」 翌日、帝国士官学校の資料室。埃まみれのアルバムを開きながら、ブロント少尉は心を震わせていた。 ──そこには、南方のジャングルを、静かに、そして迅速に駆け抜ける兵士たちの姿。 自転車を操り、草をかき分けて前進する彼らの姿に、少尉の瞳は輝く。 「これが……真の機動歩兵……銀輪突撃部隊……っ!!」 次のページをめくると、そこにはさらに衝撃の一枚。 ──兵士たちが、自転車を背負い、肩で担ぎ、濁流を渡る姿。 「こ、これが……銀輪戦士たちの真の姿……っ!」 「時代は変わっても、精神は受け継がねばならない……!」 その晩、ブロント少尉は部隊倉庫に忍び込み、戦闘用ヘルメット、携帯口糧、軍用水筒、そしてなぜか**ロードバイク(電動機能付き)**を装備。 ──そして次の日。 「我、銀輪特攻突撃隊、第13独立強襲小隊隊長、ブロント少尉! いざ、進発!!」 ドンッ! 肩にロードバイクを担ぎ、軍服姿のまま、商店街を全力疾走するブロント少尉の姿があった。表情は恍惚、完全に英雄譚の中の人。 「うおおおおおおおお!!」 商店街の人々が振り返り、あちこちでざわめきが起こる。 「おまわりさん、あの人やばくない?」 「なんか軍人さんが……チャリ担いで……走って……る?」 「ていうか、盗んだの? あれ?」 「まって、これニュースになるやつ……!」 駆けつけたお巡りさんが笛を吹きながら追いかける。 「ちょ、そこのお嬢さん! 自転車は乗るものです! 走って持つものじゃないです!!」 「我が使命を妨げる者、敵とみなす!!」 「敵じゃないです!!」 ──そして数時間後。 「……で、少尉、何をやっていたんです?」 居並ぶ警察官、通報者、そして説教担当の富士見二等軍曹。 「自転車を担いで……? 銀輪部隊? 渡河訓練? ……ブロント少尉」 「我が心に響いたの、先人たちの献身と、峻烈な志……!」 「……」 富士見軍曹は深くため息をつき、やれやれと首を振る。 「せめて乗ってください」 「……はい」 ──こうして、銀輪部隊への憧れを胸に秘めた少尉は、真面目に交通安全講習を受けるのであった。