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【教室】ちびっこ魔法教室
ミリシラ(以下ミ)「おお、今年もやるんじゃな。『ちびっこ魔法教室』」 キレーヌ(以下キ)「ミリシラ、何それ?」 ミ「うむ、10歳以下の子供を対象にしたイベントでな。魔法を学ぶというより魔法を見て興味を持ってもらうという趣旨で開催されるんじゃ。王都の孤児院が主催者じゃな」 キ「へー、ミリシラは行った事あるの?」 ミ「あるぞ。これが初開催されたのはワシが冒険者やめてすぐじゃったから、特別ゲストとして招かれたんじゃがな・・・」 キ「何かあったの?」 ミ「うむ・・・あんまり話したくないが教えてやるか」 ●過去 第一回ちびっこ魔法教室 「ふむ、ここが会場の公園じゃな。結構たくさん子供が集まっておるのぅ。さて、関係者の詰め所はどこじゃろうかな」 ワシがきょろきょろと責任者を捜しておると、大柄な男がワシの背中に手を添えたんじゃ。 「君、参加希望のちびっこだね?迷子になっちゃったんだろう?子供たちの集合場所はこっちだよ。はっはっは!」 「い、いや待て違うぞ!ワシは」 「恥ずかしがる事はないさ、はっはっは!」 ワシの話も聞かず強引に、その男はワシを子供たちの中に放り込んだんじゃ。どうやらスタッフの一人のようじゃが、まさかゲストとして呼んだ相手の顔も知らんとはのう。 「まあ良い。その内ワシの出番になるじゃろ。アドリブでなんとかするわい」 そして魔法教室が始まり、集まった魔法使い達が公園に設置された簡素な舞台の上で簡単な魔法を披露したりして子供たちを喜ばせた。しかし裏方の方で慌てたような気配がしてたから、恐らくワシが見当たらんのに焦っておったんじゃろう。ワシとしても見世物に夢中になっておる子供たちを強引に押しのけてそっちに向かうのは気が引けたので、出番になったらここから飛び出せばいいじゃろうと思っておった。そして、そのタイミングはやって来た。 「今日は特別ゲストとして、一流冒険者として活躍した賢者のミリシラ・シッタカブールさんに来てもらっているんだよ!みんなで呼んでみよう、せーの!」 『ミリシラさ~ん!』 よし行くか、とぴょんと大ジャンプして舞台の上、子供たちの前に着地した瞬間じゃった。 「はっはっは!ちびっこたちよ、全知全能の大賢者ミリシラ様だぞー!」 大柄な男が長髪のカツラをかぶり、賢者の衣装を着て舞台に上がってきたのじゃ。さわやかな笑顔で子供たちに向かって両手を力強く振っておった。 「いや偽物ー!?」 どう見てもさっきワシを子供たちの中に混ぜたあの男じゃった。奴は舞台に上がったワシを見て白い歯を見せつけるように笑顔を向けてきた。 「はっはっは、お嬢ちゃん。ワシに会えて思わず飛び出しちゃったのかな?後でサインをあげるからね、ちゃんといい子でみんなと一緒にショーを楽しんでくれ!」 舞台袖にいた責任者はワシの顔を見て真っ青になっておったが、肝心の大男は気付いておらんようでな。大男には恥をかかせてしまうが、仕方なくワシは身分をその場で明かすことにした。 「バカモン!ワシが本物のミリシラじゃ!お主ゲストとして呼んだ相手の顔も知らんのか!」 「はっはっは、お嬢ちゃん。嘘はよくないよ。ミリシラ・シッタカブールは歴戦の冒険者。高身長と立派な身体をした大賢者なんだ。そう、ワシのような!お嬢ちゃんのようなちびっこじゃないんだよ?」 責任者、舞台袖で顔を覆って膝から崩れ落ちたのがもう逆に面白かったのぅ。しかしまあ、この男やちびっこには現実を見せてやらんといかん。 「やれやれ・・・ハァッ!」 ワシは真の姿を解き放ち、男の目線と同じ高さになった。大男もちびっこも目を丸くしておったのぅ。 「ワシの顔を知らんかったのはまあまだ良い。ワシが見当たらなかったので代役として何とかショーを成功させようと思ったのかも知れん。だがな、子供たちに嘘を言ってはならん。子供たちは未来の宝、国の将来を担う人材なんじゃ。大人が嘘ばかりついておっては子供たちも真似をして嘘つきに成長してしまう。ワシが見当たらんなら素直に子供たちにはそう説明すれば良いだけじゃろ」 そしてワシは狼狽する男に手の平を向けた。 「ワシを騙って子供たちを騙そうとした罰じゃ。子供たちの目を楽しませる役を与えてやろう」 ワシが手の平をそのまま上に向けると、男の身体もそれに合わせて上空に持ち上げられた。上から大男の慌てる悲鳴が聞こえてきたが、ワシはきゅっと開いていた手の平を握った。 『ドーン!』 空が暗くなって上空で男が爆発し、派手な花火となった。と言っても、もちろん爆発の寸前に男は転移魔法で舞台袖に移動させておいたがな。子供たちはいきなり上がった花火に目を輝かせた。 「さあ、ワシの偽物は退治した!子供たちよ、全知全能の大賢者、ミリシラ・シッタカブール様の大魔法をとくと見るがいい!」 それから、ワシはド派手な魔法を多用してショーを盛り上げた。その後、初心者用の杖を使って簡単な魔法を体験する時間になっても皆ワシの魔法を見たがって引っ張りだこじゃった。イベントの終了後、責任者は大男共々ワシに頭を下げて謝罪してきたが、そもそもワシもちゃんと大男に説明できんかった事もあるのでお互い様という事にして手打ちにしたんじゃ。 ●現代 コネサンス魔法学園 ミリシラの研究室 ミ「そんな感じじゃったな。それ以降はゲストとして呼ばれておらん。恐らく魔法ショーが派手過ぎて体験コーナーが機能せんかったからじゃろ」 ヒマリ(以下ヒ)「ミリシラ先生!大変です・・・って、キレーヌさん?来客中だったんですね」 キ「あ、ヒマリ。今ね、ミリシラのちびっこ魔法教室の思い出を聞いてたんだ。面白かったなぁ、ボクもちびっこ剣術教室やってみようかな!剣術に興味のある男の子たちに手取り足取り教えてあげるの!」 ミ「やめよ。そんな裸同然の格好で少年たちに接するなんて絶対トラブルが起きるぞ」 キ「えー?」 ミ「あと手取り足取りと言ったがな、お主が後ろから少年の手を取るとどういう事になると思う?ヒマリ、言ってみよ。少年の背中には何が突き刺さるかのぅ?」 ヒ「肉」 キ「ヒマリ顔怖い!」 ミ「うん、まあ正解でいいか。お主の乳が少年の背中に密着するんじゃよ。剣の腕よりも股間の槍がめきめきと成長してしまうわい」 ヒ「ミリシラ先生、品がありませんよ」 キ「槍?ボク、一応槍も扱えるよ!お望みなら、少年たちをシゴいちゃう!」 ヒ「キレーヌさんも発言ヤバい!」 ミ「もうええ、収集つかんわ。それでヒマリ、何が大変なんじゃ?」 ヒ「そ、そうでした!そのちびっこ魔法教室、今回の来場者プレゼント見て下さい!『食べるだけでうさ耳魔法少女になれる人参をプレゼント』って書いてありますよ!」 ミ「うわー!?侵略じゃー!!ヒマリ、お主すぐヴァニラを連れて運営に殴りこめ!イベント当日までにその人参ヴァニラに食い尽くさせろ!運営側が渋ったらワシの名前を出せ!そんでキレーヌ、お主は町をパトロールして妙ちきりんな白い着ぐるみを着たうさ耳少女がいないか見回って来い!もし見つけたらワシを呼べ!速やかに元の世界にお帰りいただかんとならん!」 ヒ「はい、行ってきます!」 キ「なに、何が始まったの!?」 その後、来場者プレゼントを変更してちびっこ魔法教室は今年も無事開催されたのであった。