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初恋の相手(後編)

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2025年03月19日 15時01分
使用モデル名:animagine-xl-3.0
対象年齢:軽度な性的、流血描写あり
スタイル:イラスト
デイリー入賞 167

「凪、私ね。アメリカに行ってみようと思うんだ」 「えっ・・・?」 茶楽さんと一緒にお風呂に入っていた時、唐突に彼女は切り出しました。 「師匠とも相談してね、決めたの。海外の雰囲気や色々な人種の人たちを撮影する事で経験を積んで、もっと上手に写真が撮れるようになるんだ」 「じゃあ、紬お姉ちゃんは出て行っちゃうの?」 「うん。何年かしたらまた日本に戻って来るけど、凪と一緒に暮らすのはもうすぐおしまい。寂しいだろ」 「別に」 「嘘つけ。泣きそうになってんじゃん」 「お湯だし」 本当は、とても寂しかったです。一年ちょっとの付き合いだったけど、彼女は私の家族同然だったから。だけど泣いたら格好悪いと思った私は、クールを装っていました。 数週間後には、私と父さんは茶楽さんを見送るべく空港に立っていました。もうすぐ茶楽さんが乗るロサンゼルス行きの便が受付を始めるところです。 「すまないね茶楽君、本当は妻も見送りたかったそうなんだが、なにぶん出産を控えていてね」 「いやいやいいんですよ、お気持ちだけで十分ですって。それより、私が帰ってきた時には会わせて下さいよ?二人目は女の子なんでしょ、楽しみにしてますからね」 母さんはこの時、玄葉がお腹の中で大きくなっていていつ入院が必要になってもおかしくない状態でした。そのためいつでも病院に行けるよう、自宅で祖母と待機していたのです。 「ほら、凪も挨拶しなさい」 私は父さんの後ろに立ち、茶楽さんと視線を合わせないようにしていました。顔を見たら泣いてしまいそうだったから。 「さっさと行けば」 そして、口から出てくるのは感情を押し殺した結果の冷たい言葉でしかありません。こんな言葉を届けたい訳じゃないのに、自分をコントロールできない。そんな私の前に、茶楽さんは回り込んできてしゃがみ、無理矢理視線を合わせてきます。 「凪、ありがとね。この一年、本当の弟が出来たみたいで楽しかったよ。私、師匠の事も師匠の奥さんの事も凪の事も大好き。凪はどう?私の事嫌い?」 「・・・嫌いじゃない」 「だったらカッコつけて冷たい態度なんてしなくていいじゃん。好きな相手とお別れするのが寂しいなんて普通なんだからさ。私だってすっごい寂しいからね?でも、夢のために頑張りたいのも本当だから。だから、行ってきます。大丈夫、離れ離れになっても生きてりゃまた会えるんだから」 茶楽さんはそう言ってくれましたが、私はまだうじうじと下を向いたまま。茶楽さんはそれを見て、にっと笑いました。 「よし、それじゃあ私と約束しよう。私は立派なカメラマンになる。凪は・・・そうだなぁ。『カッコつけないで好きなものは好きって言う。そして自分にとって大切なものは諦めない』ってのはどう?自分に素直に生きて、大切なものを大事にしてれば夢だって見つかりそうでしょ」 「それ、おれだけ守る事二つあるじゃん」 「男の子のくせに細かい事言わないの。約束破ったら嫌いになっちゃうかもよ」 「・・・分かった、約束する」 「ん、いい子だ。じゃあ、約束の印ね」 そう言うと、茶楽さんは私の口に唇を重ねました。突然の事に驚いた私は、寂しがる事も忘れてぽかんとしてしまいます。 「へへ、私のファーストキスだぞ。凪がちゃんと約束守っていい男になったら将来の旦那様第一候補だからね、今のうちにツバつけとかないと」 「紬お姉ちゃん・・・」 茶楽さんはすくっと立ち上がり、荷物を持ち直しました。 「じゃあ師匠、凪。行ってきます」 「行ってらっしゃい。君の成長を楽しみにしているよ」 「・・・紬お姉ちゃん、おれも今まで楽しかった。ありがとう。行ってらっしゃい」 とびきりの笑顔を残して、彼女はアメリカに発ちました。 「・・・続いてのニュースです。アメリカメディアによりますと、現地時間で午後5時頃、ロサンゼルスで銃乱射事件が発生し、少なくとも5名が死亡、21名が負傷する惨事となりました。死亡した5名の中には、日本人カメラマンの茶楽紬さんも含まれております。容疑者は駆け付けた州警察によって射殺され、現在身元や動機の特定を捜査中との事です」 いつもの朝の時間。不穏なニュースから聞こえた、よく知る名前。世界が色褪せて、足元が崩れ落ちたような錯覚に囚われました。茶楽さんの顔写真がテレビに大写しになり、私はテレビの前で呆然と立ち尽くしていました。 不意に大きな音がリビングに響き、そちらを見やると普段は穏やかな父さんがソファを蹴り倒したところでした。大きいと思っていた背中が、やけに弱弱しく、か細く見えました。 「行かせるのではなかった・・・」 そんな父さんの呟きが聞こえたその瞬間『茶楽さんが死んだ』という事実が現実味を帯び、私はぼろぼろと泣きました。テレビの中ではまだ、茶楽さんのまぶしい笑顔をバックにキャスターが情報を伝えていました。 後日、茶楽さんの遺族から連絡があり、葬儀に弔問した時の事。その際彼女の遺品であるカメラに遺された写真が父さんに渡されたのです。私も見ましたが、ストリートにたむろする若者や活気のある屋台の写真。そして、最後の一枚は血に濡れひび割れたレンズ越しに映る銃を持った男。茶楽さんは最期の瞬間まで、カメラマンであり続けたのです。 「重いよぉ!もっとこうさぁ、おねショタ甘々な感じのエピソードかと思ったらド級のシリアス、ドシリアスだ!」 話を聞いていた幽魅がぽろぽろと涙をこぼしています。一応最初に苦い思い出って言ったのに。 「私が生まれる前にそんな事が・・・じゃあ、今のお兄がやたら『好き・可愛い』とか言うのもその約束の影響なのね」 「あー、そう考えるとそうだね。宿城事件やテロリン騒動の時とかに、やたら首を突っ込んでるのも約束の影響あるかも」 そう考えると茶楽さんが私に与えた影響は非常に大きいのかな。もしかして貧乳派なのも彼女の影響なのか・・・? 「じゃあ凪さんにとって、キスは特別に思い入れのあるものなんですね。私もいつかそんな特別なキスをしてみたいです」 「瑞葵ちゃんの場合は何の気なしにしてきそうだけど・・・」 ・・・瑞葵ちゃん? 「?どうかしました、凪さん」 「何でいるの瑞葵ちゃん。いつからいたの」 きょとんとする瑞葵ちゃんに、私は恐る恐る問いかけます。 「いつからって、凪さんがホテル出た時からついてきてますけど」 「ええ、嘘ぉ・・・」 「私、気付かなかった。幽魅さんは?」 「知らない知らない」 3人もいて誰も瑞葵ちゃんに気付かないとかある?ちょっと信じがたい。 「ていうか、瑞葵ちゃんは何で私がホテルにいること知ってたの?」 「女の勘です♪」 にこり、と笑う瑞葵ちゃん。ちょっと後で私の服とか荷物調べないと。発信機とか盗聴器あるかも知れない。百歩譲って発信機はまだいいとして、盗聴されてたらホテル内での出来事も知られてる可能性があって気まずすぎる。頼むから本当に女の勘であって欲しいな。 「今はおねーちゃんが大変だから自重しますけど、いつかまたデートしましょうね、凪さん♡」 「う、うん・・・そうだね」 天国の茶楽さん。私はちゃんと約束守ってます。でも何かそのせいで大変な人間関係になってる気がします。私が死んでそっちに行ったらちょっと話し合いましょう。

コメント (6)

五月雨
2025/03/20 13:32

早渚 凪

2025/03/20 15:06

Jutaro009
2025/03/20 13:19

早渚 凪

2025/03/20 15:06

水戸ねばる
2025/03/20 10:17

早渚 凪

2025/03/20 15:06

サントリナ
2025/03/20 03:05

早渚 凪

2025/03/20 15:06

白雀(White sparrow)

重いよぉ…かける声が見つからんよぉ…

2025/03/20 02:22

早渚 凪

ちょっと重い話ではありますが、これは現在の凪の性格付けに大きく影響した重要なエピソード。あまりに冗長になるので描写していませんが、凪はこの後茶楽の死を受け止めきれず暴力的になったり、一度はカメラの道を捨てたりと迷走してます。ただ、その後は茶楽との約束を思い出して茶楽のように『自分の心に素直に生きる』事を胸に刻んで生きてきました。

2025/03/20 15:06

もみ
2025/03/19 22:21

早渚 凪

2025/03/20 15:01

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2024年7月よりAIイラスト生成を始めた初心者です。 全年齢~R15を中心に投稿します。現在はサイト内生成のみでイラスト生成を行っています。 ストーリー性重視派のため、キャプションが偏執的かと思いますがご容赦願います。

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