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盗撮警察御賢察
「早渚君、盗撮の容疑で署までご同行願おうか」 心臓止まるかと思いました。江楠さんが警察のコスプレをして玄関先に現れたのです。 「冗談ですよね・・・?」 「署までというのは冗談だが、一緒に来て欲しいところはあるねェ。町営プールだよ」 江楠さんの目は真剣です。遊びの誘いではないでしょう。何かの仕事かな? 「ところで、その恰好は冗談のためだけに?」 「まぁね。ただ、今回の用事で警察に借りを返せるチャンスでもある。何かの役に立つかも知れないから着ているのさ。『私』が警察の格好をしているからって咎める法律は『ない』からねェ」 歩く治外法権だなこの人。でも、借りを返すという事は恐らく幽魅の一件で無茶な鑑識をさせた事と関係があるはずです。予定もない事ですし、私は頷きました。 「残暑の影響かねェ、そこそこ人がいるじゃあないか」 プールサイドで江楠さんと合流しましたが、気になるのは江楠さんの格好です。 「競泳水着は似合ってると思いますが、なぜ手袋を?」 「以前鬼と闘って以来、この手はこの世のものじゃなくなってねェ。見えないんだよ」 「今度は絶対に冗談ですよね。前に素手の状態見てますから」 せっかく競泳水着がぜっぺ・・・スポーティな体形に似合っているのに、手袋が異彩を放っていて絵になりません。 「早渚君、さっきから胸ばかり見過ぎじゃあないかい?見ての通り女性らしいと言えない体なんだがねェ・・・」 江楠さんは視線を感じて恥ずかしそうに手を胸元に持ってきます。意外と女性らしい悩みがあるのかもしれません。 「私の体より、こっちを見てくれないか。私が一部修正したが、元の想像はつくだろう?」 江楠さんが数枚の写真を渡してきます。女性の裸体を収めた写真ばかりです。乳房や性器は油性マジックの黒塗りで隠されているものの、現像時には丸見えだったでしょう。 「闇アダルトサイトで男性が購入したものを、その妻が見つけてねェ。しかし、この写真の背景がここの更衣室に見えると相談を受けたんだ。実際、ここの更衣室で間違いない。写真家の君に問うが、どうやって撮ったと思う?」 「・・・定点隠しカメラではありませんね。全てアングルが違います。何らかの手段で更衣室に忍び込んだ可能性が大です」 「やはりそうかい。ところで話は変わるが、風の噂によると君の女装は大変キュートだそうだねェ?」 「ここでその話題転換はおかしくないですか!?」 「いやぁ何、女装して更衣室に忍び込む輩がいる可能性もまだ捨ててない訳だしねェ。君、ちょいちょい盗撮めいた事してるだろ」 黒下着見えてる瑞葵ちゃんやシリアちゃんのショーツ、桃宮ちゃんの服に虫が入った時や玄葉のバスタオル姿とかくらいですが・・・いや大分やってんな私。 「いくら何でも、女性更衣室で長時間着替えもしない人間がいたら怪しまれるに決まってるでしょう。スマホじゃリスキーすぎるので小型撮影機器とかも使う必要があるんだし、100%挙動不審になります」 「うーん、そうだねェ。こりゃ、サイトの更新を見て被害者を割り出し、その被害者にいつ着替えたかとか怪しい奴がいなかったかを地道に聞くしかないかねェ」 江楠さんが渋い顔をしています。と、上空から羽ばたきの音が聞こえてきました。 「おーい、凪くーん」 スクール水着を着た幽魅でした。天使の翼をはためかせてプールサイドに舞い降りてきます。と、私の手元を見て叫びました。 「あー!凪くんエッチな写真撮ってるー!いつかやると思ってました!」 「人聞きの悪い事大声で叫ばないで!?」 あ、でも幽魅の声は私にしか聞こえないのか。危ない、社会的に終わったかと思った・・・。 「んぅ?早渚君、どうしたね」 江楠さんも怪訝な顔をしています。良かった、やっぱり聞こえてないんだ。しかし、騒いでいる当の幽魅のテンションは収まりません。 「ふーんだ、写真に憑りつけば分かる事だもんねー!」 幽魅が盗撮写真に吸い込まれていきました。そのまま、写真の中の更衣室をきょろきょろと見回して、全部の写真を渡り歩いた後に、実に決まりの悪そうな顔で出てきました。 「えーと・・・ごめんね?撮ってたの凪くんじゃなくて清掃員の女の人だったね?いやー、凪くんがそんな事するわけないって私は信じてたからね、うんうん!」 何が信じていただ。いつかやると思ってたって言ったくせに。 「って、じゃなくて!幽魅、清掃員の女の人がこの写真撮ってたの!?」 「えっ!?う、うん。ゴミ箱の中身集めたり、日報書く振りしながらペン型のカメラであちこち撮ってたみたい」 「おい早渚君、幽魅君がいるのかい?何だい清掃員の女とは?私にも説明したまえよ」 私は江楠さんに『幽魅が写真に入り込める』事を説明し、その中で幽魅が見た盗撮犯の特徴を伝えました。 「オイオイオイオイオイ一気に解決じゃあないか。とりあえず客観的な証拠が欲しいねェ、だがそこまで絞れてれば責任者を揺さぶりゃあ済む話だ、よぉし後は私に任せておきたまえ、今日の私は『警察』だからねェ・・・!」 その後江楠さんは見事に盗撮犯を捕まえ、その手柄を警察の『友人』に押し付けてきたようです。ご機嫌の江楠さんと別れて、私は家に帰らせてもらえました。 ちなみに幽魅はついてきて、自分の手柄をドヤり散らかして褒めて撫でてとウザ絡みしてきたので、私を疑った件で逆に詰めて、お望み通り撫でてあげました。スクール水着に包まれたお腹を。今日は触らせてくれたので、お腹は幽魅にとってセーフのラインなのでしょう。独特の感触がくせになりそうです。・・・あれ、話が脱線しているような。まあいいか、もうちょっと幽魅のお腹を堪能させてもらおう。