ナギちゃんとミズキくん

凪さんにお願いがあります、と鈴白ちゃんに呼ばれて、今日は鈴白ちゃんのお家にお邪魔しています。そうしたら双子のお姉さんの向日葵（ひまわり）ちゃんを紹介されました。彼女は服作りが趣味で、今回私に実際着てみて欲しいという事だったのです。なのですが。 「あのさ、これって女装だよね」 「早渚さんすっごい似合ってますよ！瑞葵もそう思うよね？」 「凪さんかわいい・・・ほわぁ・・・」 私はウィッグを被らされて、さらにパッド付ブラを付けられOL風の格好にされてしまいました。これは絶対に服を着てみて欲しかったんじゃなく私に女装して欲しかったに違いありません。服はともかくウィッグとブラはおかしいでしょう。 「おねーちゃん、凪さん。私、ちょっと着替えてきます・・・！」 鈴白ちゃん・・・ややこしいから名前で呼ぼう。瑞葵ちゃんが慌ただしく部屋を飛び出していきました。悪い予感がします。 「向日葵ちゃん、私もうこれ脱いでいい？」 「いいって言うと思いますか？」 許可するわけないですよね、そりゃ。しかしタイトスカートというのは足も動かしにくいしすーすーして落ち着きません。向日葵ちゃんの視線も感じるし、女性はいつも男性の視線をこういう風に感じているのでしょうか？ そうこうしているうちに、瑞葵ちゃんが戻ってきました。白スーツの男装をして。 「この間、町でかっこよくスーツを着こなした赤髪ポニーテールのお姉さんを見かけたので、ちょっと真似してみました」 多分江楠さんだ。確かに江楠さんのスーツ姿は決まってますからね。 「瑞葵、その態度だと女の子にしか見えないよ？もっとカッコ良かったじゃん、あのお姉さん」 「そ、そうだね。それじゃ・・・」 瑞葵ちゃんが咳ばらいをして、座り込んでいる私に視線を向けます。 「ナギちゃん、今日は来てくれてありがとう。でもさ、男の家に来るって事はどういう意味か分かってんだよね？」 低音イケボを出して演技を始めました。何だこれ、ナギちゃんって私の事だろうか？私が戸惑っていると、瑞葵ちゃんはずいずいと距離を詰めてきます。私は座ったまま壁際まで後ずさりしていきました。 「今更逃げられると思ってんの、ナギちゃん？」 ドン！と瑞葵ちゃんが壁ドンしてきました。いや、これはもう瑞葵ちゃんじゃないな、ミズキくんだ。 「み、ミズキくん、落ち着いて・・・？」 「ナギちゃんが悪いんだよ、普段からあんなに無防備に振舞ってさ。おれ以外の男もみんなナギちゃんの事目で追ってるよ」 ミズキくんが手首をがっちり掴んできました。いや、力強っ！？しかし思い返してみれば、大人の男を片手で試着室に引っ張り込むくらいだから、見かけによらず腕力あるんだよな、この子。 「他の奴にとられる前に、ツバつけとかないと、ね」 ミズキくんが私の顎をクイッと上げて、唇を重ねてきました。 「！？」 ・・・と、思ったのですが、何かプラスチックの感触です。見ると、私たちの唇の間には、向日葵ちゃんの手で横からクリアファイルが差し込まれていました。ナイスガードです。 「瑞葵、早渚さんも。イチャイチャするのいい加減やめてくださーい」 もの凄いジト目で見られてしまいました。瑞葵ちゃんも、はっと我に返ったように体を離します。 「えっ・・・わ、私いま何してた・・・？」 「早渚さんにちゅーしようとしてた」 向日葵ちゃんが淡々と告げると、瑞葵ちゃんは顔を真っ赤にして、 「ぴゃあー！？ご、ごめんなさーい！」 逃げ出してしまいました。向日葵ちゃんが私を見て申し訳なさそうに言います。 「ごめんなさい早渚さん。あの子早渚さんの事大好きだから暴走したみたい」 「そういうのじゃないもーん！」 瑞葵ちゃんが戻ってきて物凄い剛速球でクッションを向日葵ちゃんの頭に投げつけました。ボンッ！と凄い音がしました。 「こらぁ瑞葵！お姉ちゃんに何するの！」 なんか姉妹対決が始まりました。 「おねーちゃんが変な事言うからでしょー！」 「私の好きな言葉を教えてあげる。『姉に逆らえる妹なぞ存在しねぇ！』」 ジ〇ギかな？でもどっちかというと姉に逆らえる『弟』の方が存在しない気がしますね。あ、そんな場合じゃない、二人を止めないと。何て言おうかな。 「わ、私のために争わないでー！」 言った後でなんか違うと思ったのですが、二人はぴたりと喧嘩をやめてくれました。 「早渚さんかわいいねぇ。かわいいは正義だねぇ」 「ん。凪さんはかわいい」 その後二人にさんざん可愛がられた後ようやく解放されました。何だったんだろうこの時間。