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偽りの武器
父さんがこちらに合流してからは、話がかなり進みました。ここ最近のものではなかったものの、この町のホテル街で撮った写真はかなりの枚数がありました。それぞれ幽魅に確認してもらって『ヤドリギカンパニー』で見た顔が無いかチェックしてもらい、その結果数人の中年男性が“クロ”として浮かび上がったのです。宿城サイト本人はいませんでしたが、彼の部下の行いを出せれば少しは打撃になるはずです。 犯行現場、加害男性の要素は揃いました。あとは実際の被害者の証言や証拠映像がぜひ欲しいところですが、さすがに厳しいか・・・。 「お兄、とりあえずのディープフェイク案はいくつかできたよ」 加害男性が若い女性をホテルに連れ込む合成写真などを何パターンも作りましたが、やはり映像や音声がないとまだインパクトに欠けます。玄葉にも手伝ってもらって、動画を作っているのですが、素材が足りなさ過ぎてなかなか思うようにいきません。 「実際の被害女性に体験談を聞ければ、音声くらいならなんとか再現できそうだけど。映像欲しいな・・・できればガッツリ行為中のやつ」 玄葉が唇を噛みながらないものねだりしています。そんなもの、それこそ犯人の男しか持ってないと思うので、かなり厳しいです。 「私が脅迫すりゃあ映像くらい喜んで出してくれそうだが、宿城にバレるのが避けられないねェ。脅して口止めしてもバレた瞬間こっちが潰されるんだから脅しの意味がないしねェ」 江楠さんの得意の脅迫は、相手がこっちに逆らえないからこそ意味があるのです。江楠さんが普段脅迫している相手の駆け込み先は大体警察で、江楠さんと警察はグルなので駆け込んだ相手が破滅するのですが、今回は駆け込み先が宿城サイトになる事が問題で手が出せないのでした。 「鈴白瑞葵君だったかねェ、彼女の聞いた噂の被害女性は分からないんだろう?」 「そうですね。あくまで噂で、誰が実際連れ込まれたとかまでは話がないそうです」 手詰まりか・・・そう思っていた時でした。 「おじさーん、来たよー」 学校帰りの桃宮ちゃんが家を訪ねてきました。何かあったのでしょうか。 「シロ先輩たちから聞いたんだけどさー、犯人とラブホでハメ撮りできる女子いればいーんだよね?協力できるかも」 「ブフッ!」 瑞葵ちゃんたち、中学生に何話してるんだ!今度注意しておこう。 「そ、そうなんだけどね。桃宮ちゃん中学生でしょ。これ以上巻き込めないよ」 「あっ、違くて!私じゃなくって、イトコだって!5つ年上のイトコ!」 詳しく聞いてみると、桃宮ちゃんには5つ年上の『桃宮優』『桃宮雅』という双子姉妹の従弟がいるそうです。その妹さんの方『桃宮雅』ちゃんが、とんでもない逸話の持ち主でした。 「妊娠しない体質で、それをいいことに毎日不特定多数と寝てるんだって。中学時代には同じ学校の男子皆食べたとか、奪った童貞は百から先数えてないとか。ついたあだ名が『ミヤビッチ』とか」 教育に悪すぎる存在です。エロ漫画の世界の人かな? 「この町住みじゃないから、来てもらうのにちょっと時間かかるけど。プロのAV女優とかじゃないから顔バレしてないしー、カンペキじゃん?」 「いや、でもその子に悪いよ。相手だって一人じゃないし・・・」 「雅ちゃんガチでサキュバスでー、ベッドの上で負けた相手いないから。男が10人くらいいても大体先に男たちの方がもう勘弁してくれって泣いちゃうみたい」 化け物かよ。もう終わりだなこの国。とはいえこの状況には頼もしい存在です。 「・・・こんな事頼むの気が引けるけど、お願いしてみてくれる?できれば無理やり襲われるプレイを撮られるのが好きって設定で」 「おけまる!早速メールしておくねー。ターゲットの男たちの写真ちょーだい」 標的の中年たちの写真データを桃宮ちゃんに送り、雅ちゃんに連絡してもらいました。 数日後、私たちのところには一晩中男たちに入れ替わりで襲われる雅ちゃんの映像が届きました。映像見る限り最終的に逆転して男たちを襲ってましたが、まあともかく素材として十分使えます。ていうかもうこれそのままでOKです。 「これ、宿城が手を引けって言うまでもなくオシマイだねェ。見たまえ、男全員干からびてるじゃあないか」 「こいつら、しばらくは自慰もできないかも知れませんね・・・」 「ところでお兄・・・これモザイクかけるの?全編だと吐くほど作業量あんだけど・・・」 一応、宿城の社会的信用を落とすためのものなので、結構な人数の目に触れる映像ですから、無修正はマズいです。 「私も手伝うから、頑張ろうね、玄葉」 「しばらく配信休むって言っとく・・・」 あとは宿城がこの男たちにやらせた証拠か・・・最小限に合成して誤魔化す事にしよう。折角フェイクでも何でもない映像があるんだから。