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【メカクレ】普段隠れてるのが見えるのっていいよね
「これは何というか・・・ちょっとギャップがある感じだね」 私が手にした5枚の写真。それは、幽魅が実家から持ってきた彼女の幼少期のものでした。今と髪型が違って、両目ともが前髪に隠れてしまっています。しかし、写真から伝わる雰囲気は非常に活動的で、幽魅が元気よく外で遊んでいた子だというのがよく分かります。 「この頃はねー、女子より男子と遊ぶのが多かったかなぁ。皆で鬼ごっこしたりヒーローごっこしたりしてさ」 「成程・・・イメージしやすいね。それでちょっと気になってるのはさ、これ前髪邪魔じゃ無かったの・・・?」 「あ~・・・それはねぇ」 幽魅は私のベッドに腰掛けたまま、ちょっと視線を逸らしました。何だろう、話しづらい重大な理由でも 「目元が隠れてる方がカッコいいかな~って」 全然そんなじゃ無かった。大方ハマってた特撮や漫画のキャラに目元を隠したやつがいたんだろう。 「でもよく前が見えなくて転んだりしてたなぁ」 軽慮浅謀(けいりょせんぼう)ってこういう事を言うんだろうな。 「・・・しかしさ、幽魅。この頃の幽魅って男子に人気あったんじゃない?」 「えっ、そう?あんまりそんな記憶無いんだけど」 「そうか・・・まぁまだそこまで女の子の事気にする年齢じゃないか。この写真見る限りさ、ちょいちょいへそチラしてるしなんなら胸チラもあったと思うんだよね。一緒に遊んでたら意識しちゃうかなと思って」 「凪くんのえっち野郎!」 ぺしんと平手打ちされました。全然痛くなかったけど。 「すーぐそういうえっちな事考えるんだからなぁもう!」 「ごめんごめん。それにさ、これ前髪で顔が隠れてるけど、素顔が見えたタイミングはきっと男子はドキッとしてたと思うよ。だって幽魅って顔可愛いでしょ、『前髪で隠れてて普段意識してなかったけどふとした時に見える素顔が美少女』なんて要素、絶対人気あったって」 「かわっ・・・ふぅー、平常心平常心。凪くんの『可愛い』は社交辞令、信用ならない。何たって実際見てないんだから」 なんか妙な対策立てられてる。じゃあ実際のところ可愛かったかどうか、試してみようじゃないか。 「じゃあ幽魅、ちょっと試しにこの年頃の服と髪型になってみてよ。体はそのままでいいからさ」 「え~・・・?」 ちょっと不満そうでしたが、むにむにと変身してくれました。こうしてみると、今の普段着よりかなり肌の露出があるんだな。しかもしっかり胸が膨らんでいるから、写真のものよりも強く『女』を感じます。 「で、服はそのまま髪型だけいつものに変えて」 「これで何か分かるの?」 髪型が変化して、幽魅の素顔が見えました。やっぱり人気あったんじゃないかな、これ。 「幽魅は可愛いという事がよく分かったよ」 「また!もう、からかうなら写真返して!」 幽魅が私から写真を取り返そうとして飛び掛かってきました。私は写真を取られないようにガードしますが、わちゃわちゃしている内にバランスを崩し、幽魅をベッドに押し倒す形で倒れ込んでしまいます。 「あ・・・」 「ごめん、幽魅・・・って、え!?」 まくれ上がった幽魅のシャツの裾から、魅惑的な素肌の曲線が見えてしまっていました。 「な、何でブラしてないの」 「だ、だって凪くんが写真の時の服になれって言うから・・・」 そっか、この写真に写ってた当時の幽魅がブラつけてる訳ないもんな。そこ忠実に再現しちゃったのか。しかし、これは・・・。 「私は女の人の胸は慎ましい方が好みなんだけど、さすがに目の毒だね。ちょっと失礼」 「!?」 私は幽魅のシャツの裾を引っ張って直してあげようとしたのですが、見事に指先が服をすり抜けました。 「あれ」 「あれじゃないでしょ!何でめくろうとするのさ!」 「えぇ!?いや違うよ、隠してあげようと思ったんだよ!」 「うそだー!えっちな目してたもん!」 幽魅は自分で服を整えて、私をじろっと睨んでいます。参ったな、完全に誤解されてる。 「幽魅、よく考えて欲しいんだ。もし私が幽魅の胸を見たいと思ったなら、もっと露出度の高い服を指定すると思わない?」 「・・・んぅ。バニーさんとかマイクロビキニとか?」 「そうそう。だからね、そういう意図は無かったんだよ」 幽魅はちょっと考えている様子です。少しして、そっと口を開きました。 「じゃあ、私がもし今『お医者さんごっこ』しようって言ったら、凪くんはどうする?」 「もちろんするよ。お医者さんの役は私ね」 「やっぱりえっちじゃん!」 幽魅はするりとベッドや床をすり抜けて逃げて行ってしまいました。 「待って幽魅、今のはずるい!女の子にお医者さんごっこ誘われて断れる男がいる訳ないじゃんか!ねえ!」 私の叫びに返事は無く、ただ静寂が場を支配しました。手元に残った5枚の写真の笑顔が、逆に私に虚無感を与えてくるのでした。