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ラファエル様のゲリラ雑談「発信のきっかけ」
ハローヘイロー地球の皆様、YESラファエルNO天使、義眼の聖女「ラファエル」です。今日のお務めは終わりまして、今は夜の清めの時間です。少し地球の皆様とお話ししたい気分でしたので、ご迷惑かも知れませんが発信させていただきました。 今日は皆様にもなじみ深いミリシラ様のお話をしましょう。まずは、ミリシラ様が地球に映像を送り始めるきっかけになった出来事のお話です。 ある日の夜、ミリシラ様が自宅に帰ると家の前で男の人が倒れていたそうです。行き倒れの旅人のようにも見えたので、心優しいミリシラ様は家に運び込んで治癒の聖術で体力を回復させてあげました。すると男の人は目を覚まして、「ここはどこだ」「追手は来ているのか」「俺は死んだはずじゃ」などと落ち着かない様子でした。そこで不穏なものを感じたミリシラ様は、自白魔法を用いて男の人の素性を聞き出す事にしたのです。 彼の名前はサイトさん。地球の日本という国で社長をやっていたそうですが、粗暴な本性が露見した上に公の場で刃物を振り回して暴れたので、警察というものに追われていると語りました。そして、謎の追手に喉を切り裂かれたはずだと言うのです。ミリシラ様はここで初めて「地球」という世界がある事を知り、サイトさんが異世界からの転移者・・・いえ、転移者寄りの転生者であると把握したのです。 ミリシラ様は「地球」について何か知っている者がいないか、記者を通してサイトさんの存在を公表する事で情報を募ろうとしました。しかし、記者が構えたカメラを見た途端、サイトさんは憎悪を露わにして記者を相手に激しく攻撃行動を始めてしまい、ミリシラ様はすぐにサイトさんを拘束しましたが彼の怒りは収まらず、とても取材どころではありませんでした。 その後も、しばらくはミリシラ様はサイトさんの面倒を見ていたのですが、カメラを目にすると怒り狂い、またミリシラ様の教え子たちのような「黒いマント」を着た人間を見つけるとひどく怯えるといった、精神的に不安定な様子がずっと続きました。ついにサイトさんの扱いに手を焼いたミリシラ様は、サイトさんを私に預け、聖職者見習いとさせる事にしたのです。この時、ミリシラ様はサイトさんを元の地球に帰す事を諦めたそうです。これほど暴力的な振る舞いをしていたのなら、元の世界でも嫌われ者だったはずだろうと判断し、地球に帰す方法があったところで地球人が彼の事を嫌がるだろうと思ったのだとか。そして、それはそれとして地球に暮らしている人々には興味が湧いたようで、折角だから自分の住む世界の自慢も兼ねて地球とのコンタクトを取ろうと決めたんです。それが「ミリシラ様の異世界百景」の始まりでした。 一方、教会に預けられたサイトさんは、最初は聖職者の仕事に何の興味も示さず、むしろ見下していました。他の僧侶を脅しつけたり、見目麗しい女性僧侶には手を出そうとするなど、その振る舞いは目に余るものでした。私がいれば、私から発せられる信力の波長で彼の他者に対する攻撃的な感情を抑える事ができるので、私の前でだけは大人しい人なのですが。他の僧侶からはサイトさんとはやっていけないと苦言が溢れていましたね。 そこで私は、「ラファエル様専属お世話係」として四六時中私と一緒にいるように、と司祭様を通じて彼に言いつけました。朝、起床した私の着替えの手伝いや髪の手入れをしてもらって、お祈りの時間はそばで一緒にお祈りをしてもらい、一日に何度もあるお風呂の時には私の体を洗う役を任せていました。お風呂の補助を男性にさせるなど、一般的には良くない事なのでしょうが、これは私の場合仕方のない事です。私は信力の波長の反射で物の位置や形は分かりますが、もし私を狙う刺客によってボディソープの中身を劇薬にすり替えられていたりしたら、それに気付けないかも知れないのです。ですからお世話係の人がソープを目で見て、異常が無いか確認してから私の体に使うという手順が必要でした。そして、私は体から発する波長によって男性の「自己中心的な性欲」を抑制できるので、お世話係は同姓でなくても間違いが起きる事はないのです。 それでサイトさんが乱暴になるタイミングはだいぶ減らせたのですが、まだ私から離れると苛立つような仕草をしている事があるとの事でしたので、さらに追加で私と同じベッドで添い寝するよう指示をしました。これで夜寝ている間にも、私の信力の波長で彼の心を浄化する事ができます。夜ごと彼を胸に抱いて、寝付くまで子守唄を歌ってあげていました。その甲斐あって、お世話係を始めて一か月ほど経った今は、サイトさんはすっかり根本的なところから善人になれたようです。先ほど私のところに連絡がありましたが、イヴェール大氷河での花火大会において雪崩が発生してしまったのですが、ミリシラ様が結界で雪崩を防いでいる間にサイトさんは率先して足腰の弱い人や子供たちの避難を手伝い、怪我人なく雪崩を乗り切れたそうです。元々社長という立場だった事もあってか、リーダーシップのある方ですので、他の僧侶たちにも適切な指示をバシバシ飛ばして、不安がる見物客を聖職者全体がフォローできるような体制を整えていたという事も聞いています。私のそばにいなくてもそれほどの善行を行えるのであれば、もうお世話係は解任しても良いかも知れませんね。 ・・・あら、途中からミリシラ様の話じゃなくてサイトさんの話になってしまっていましたね。話が脱線してしまって申し訳ありませんでした。お湯も冷めてきてしまいましたし、ミリシラ様が冒険者時代に残した偉業などについては、また別の機会にしましょうか。 それでは失礼いたします。さよなラファエル~。