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【R-18】4人だけのスキー場
「や、やめてください金剛院さん!なんですかその手つき!」 「おほほ、安心なさいませ玄葉さん。おかしな事はしませんわ、ただちょっとスキンシップするだけですの」 「全然安心できません!こ、来ないで下さいよぉ!」 「よいではないかですわ、よいではないかですわ」 ・・・女湯の方から楽しそうな声が聞こえてきます。旅館に引き上げた私たちは、スキーで汗ばんだ体を綺麗にするために露天風呂に入っています。もちろん、混浴なんかではなく男女別なので、男湯は私一人。ちょっと寂しいですが、まさか女湯に突撃する訳にも行きません。ここはしっかりと身体を温めて休め、翌日の筋肉痛を少しでも軽減できるようにしておかないと。私は湯の中で体を伸ばして、体をほぐしていきます。 「あの感じだと、玄葉が晶さんにちょっかいかけられてるのかな。どういう光景か容易に想像がつくなぁ」 「想像にとどめておいて下さいね。実際覗きに行ったりしたら『Dead or Die』ですよ」 「それどっちも『死』じゃないですか。花梨さん、あんまり物騒な事言わな・・・。え、は?花梨さん!?」 独り言に返事が来たので思わず返してしまいましたが、慌てて振り向くと花梨さんがバスタオル一枚の姿で男湯に入ってきていました。な、なんで!?もしかして花梨さん、間違えて男湯に来ちゃったのか!?私は慌てて足の姿勢を整え、花梨さんからアレが見えないようにします。 「はい、桜一文字花梨です~。お嬢様の命により、早渚さんを監視しに来ましたよ」 「いや待ってどういう事ですか!?晶さんが命令!?」 全く訳が分からない!晶さん何考えてるんだ!? 「正確に言うと『一応、早渚さんが女湯を覗かないように気を付けておいてくださいまし』と言われたんですけどね。露天風呂だから、かなり隙が多いんですよね。その気になれば結構覗けちゃうんですよ。岩場登ったりとか、仕切りの壁に穴開けたりとか。なので、もうわざわざ覗き対策するんじゃなくて早渚さん本人を見張ってれば一番簡単じゃないですか」 「だからって男湯に入りますか普通!?」 「まあ、早渚さんしかいないし大丈夫ですよ。私を襲ったりしないですよね?」 「そりゃあ、しませんけど・・・」 花梨さんは、私の隣に腰を下ろしました。バスタオルが湯の中で揺れて、今にも花梨さんの体が見えそうだったので、私は視線を逸らします。 「いいお湯ですね~。あ、体は洗い場の方で先に洗って来たのでマナー違反じゃないですよ?」 「ま、マナー違反というなら、タオルをお湯につけるのもダメじゃないですか?バスタオル取るか、女湯に行くかしてください」 これで女湯の方に戻ってくれないかな。さすがに私に裸を見せる事は無いだろう。そう思っていたんですが。 「あー、ちょっと待って下さいね。こうすればセーフかな」 花梨さんは私に背を向けてバスタオルを取り、畳んで湯船の縁に置きました。そして今度はフェイスタオルを首からかけて、私に向き直ります。丁度胸だけを首から下げたタオルで隠す形です。いや、全然セーフじゃない!余計にアウトですけど!? 「ちょっと花梨さん!見える!見えちゃいますよ!」 「ふっふっふ、動揺してますねぇ。まさかタオル取るとは思ってなかったんでしょう。さあ次はどうしますか?」 か、完全に遊ばれてる・・・!仕方ない、晶さんに声を掛けて花梨さんに命令してもらおう。 「晶さーん!男湯に花梨さんが来てまーす!女湯に戻るように言ってくださーい!」 「何ですって!?おのれ桜一文字、見かけないと思ったらまさかそんな手を!許しませんわ!」 「お兄、何やってんの!まさか桜一文字さんの裸見てないよね!?」 女湯の方から叫び声が返ってきました。どうかな、さすがにこれなら花梨さんも女湯に戻らざるを得ないだろう。 「桜一文字、そこで待っていなさい!今わたくしもそちらに向かいますわ!」 「お兄、逃げたら承知しないからね!」 ・・・えっ?何、二人がこっち来るの?いや最悪の事態じゃん! 「おやおや、モテモテですねぇ早渚さん?良かったですね、皆で一緒にお風呂入れますよ」 冗談じゃない、後が大変な事になるのが目に見えてる!玄葉はともかく晶さんの裸を見た日には、もう強制的に金剛院家に婿入りするしかなくなるだろ!何とか逃げ出さなければ。しかし目の前には花梨さん。こんな面白そうな状況で私を逃がしてくれるとは思えない。何とか隙を作るしかない。 「・・・花梨さん。今のうちに謝っておきます」 「はい?」 私は、お湯の中から手を伸ばして花梨さんのフェイスタオルを掴むと、一思いに引っぺがしました。もちろん、その際には目を閉じて。 「っ!?きゃ、きゃああ!?何するんですか早渚さん!」 花梨さんは咄嗟に腕で胸をかばうとお湯に体を深く沈めます。逆に私は湯船から飛び出し、一目散に脱衣所へ。着替える暇はないので、自分の服が入った脱衣かごを掴んで男湯を飛び出し、その勢いで廊下の非常階段の鉄扉の中に駆け込みました。タオルで体を拭き、服を着ながら扉の向こうの音を窺います。どうやら、晶さんと玄葉が男湯に入ったようでしたが、会話の中身までは聞こえません。三十分ほどはそこに身を潜めていたでしょうか。そろそろいいかなと思ってそっと鉄扉を開けて、廊下に戻ります。 「早渚さん、さっきはよくもやってくれましたね」 不機嫌な声に振り向くと、鉄扉のそばで待っていた花梨さんと目が合いました。怒り心頭のご様子。 「水滴の跡でここに逃げたのは分かってたので、待ち伏せさせてもらいましたよ」 逃げる間もなく私は捕まり、腕ひしぎ十字固めを喰らいました。 「あー!ギブ!ギブです!」 極められた腕の手首だけを動かして、花梨さんをたぷたぷとタップすると、技をかけるのをやめてくれました。 「・・・早渚さん、だんだん私に対してやる事が遠慮無くなってきてません?初めに会った頃はエッチなお願いさえ躊躇ってたのに、あの紳士はどこに行ったんですかねぇ?」 「すみません、で、でもですよ。男湯に入ってきた時点で裸を見られても文句言えないと思います」 「あー、私のせいにするんですね。・・・まあ、流石にちょっとやり過ぎでしたか。お嬢様の裸を見たりしたらもう婿入り待った無しですもんね、なりふり構ってられないですよね」 「分かっていただけてありがとうございます」 私たちは立ち上がって着衣を直すと、お互いに頭を下げました。 「・・・ところで、私の胸見ました?」 「いや、目は閉じましたし、逃げるのが最優先だったんで正直ちっとも見てませんでした」 むしろ、なりふり構わず立ち上がった私の方がナニを見られたかもしれないくらいですが。 「そうですか。なら良いです。とりあえずその脱衣かご返してきてください。そしたら夕食にしましょう」 脱衣かごを返して、私たちは連れ立って食堂に向かいます。食堂では私と花梨さん二人揃って、晶さんと玄葉から『スケベ』呼ばわりされました。元はと言えば花梨さんが男湯に入ってきたせいなのに、ひどいや。お風呂の後なのに、体力的にも精神的にもどっと疲れてしまいました。