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汚いクノイチ
「みっ、見た?」 「いや……、何が何だかよくわからなかった」 (見た目通りだったぜ……) 思わず心の中で付け加えてしまったブロント。 「猫か何かに変身して潜入したらどうかと思ったけど。無しね……」 きっちりと、いつものローブ姿になったシルビアは、何事もなかったかのように続ける。 勿論、顔はまだまだ赤いが。 多彩な魔法を使えるとはいえ、それらの魔法を的確に選択して、適切な場所とタイミングで使えるかは、また別の問題なのだ。 「ちょっとまて……」 ブロントが何かに気づいたように話を制止する。 窓の外の、気配をうかがうような様子をみて、シルビアも杖をつかむ。 「ここは、4階なのよ。覗き見は……、うっきゃあ!!」 外壁にへばりつくように部屋の中を覗き見ている人物と目が合った。 本当にいた。 前髪と、色眼鏡を掛けていて、人相はよく見えないが、黒い和服の様な衣装、たぶんニンジャ服を着ている、女性だろう 「まじかよ!!」 ブロントが慌てて駆け寄るが。 ニンジャが手足で壁を蹴って空中に躍り出るのと同時に。 『マナよ。鎖となりてかの者を縛れ』 「まっ、まて、4階だぞ!!」 何の魔法が察しがついて、慌てて止めようとしたブロントだが。 パラライズ(麻痺)の魔法は見事に発動した。 ニンジャは空中で体を回転させようとした姿勢のまま固まり、地面に落ちた。 「しっ、死んだか……」 「たっ、たぶん……」 ものすごい音が4階まで響いてきたので、二人は素で呟く。 盗賊ならば、経験と素養によって巧みに衝撃を消して、落下高度を無視するかのように受け身を取れるのだが。 流石に麻痺の魔法を食らって、身動きできないまま10メートル近くを落下して無傷のわけはない。 だがしかし、女性ニンジャはむっくりと起き上がった。 懐から何かを取り出すと、階上から見下ろす二人に向かって投げてくる。 「うな!!風晶石か!!」 精霊力が封じ込まれた宝玉は炸裂すると、強烈な突風を巻き起こす。 同時に何かの煙幕、目つぶしが含まれていたのか、辺りに目や鼻を刺激する、白い煙が立ち込めている。 「ごほっ、くっ、クソ!!汚い忍者め!!」 「こほっ、もう、何なのかしら」 毒づきながらも。 (これは厳しいかもしれないわね) (あの高さから落ちて、まだ動きやがる。ただ者じゃねえぞ) 二人は熟練の冒険者の目で相手の脅威を感じ取った。