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便利な魔法
「お~い、シィルちゃん。ちょっといいか?」 ブロントはシルビアの居室を訪れた。 潜入任務の打ち合わせのためだ。 離れた場所からバックアップするのがシルビアの役割だ。 なにか役立つ魔法はないか、と思い訪れたのだが。 「いないのか……?」 ノックをしながら呼びかけるが答えがない。 だが……。 「にゃ~」 何だが猫の鳴き声が聞こえる。 「なんだ?猫飼ってたのか」 妙な感じがして、ノブをひねってみると、少しドアが開いた。 「おわ!!」 ドアの隙間から見えてるシルビアの部屋、なぜか、いつもシルビアが着ている、賢者のローブが床に落ちていた。 近くに、鳴き声の主らしい、白猫が床に座っていて、ブロントを睨みつけてくる。 なんで服だけ? 「なんかあったか!!」 異変を感じ取って中に踏み込むブロント。 シルビアはいない。 「猫ちゃん!!ご主人はどうした!!」 無駄とは思っても猫に話しかけるブロント。 白い毛並みのなかなかきれいで可愛らしい猫だ。 ちょうど、シルビアの銀髪と同じような色合い……。 ブロントがふと思った瞬間。 ポン、と白猫が人影に変わった。 「えっ、しっ、シィルちゃん!?」 そして、もちろん。 「馬鹿~!!とっとと出て行って!!」 シーツを体に巻き付けて、怒鳴りながら真っ赤な顔で杖を向けてくるシルビア。 甲高い悲鳴と、魔法に追い立てられて。 (そりゃあ、変身の魔法じゃあ、服まで変わらないわな) 白猫の毛並みと、ハーフエルフの少女の姿を、頭の中で思い比べながら思うブロントだった。