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ありがたい白髪の神官様
「ぷぷぷ、ブラザー、まったく似合っていないよ。」 ダキニラは相棒の姿に抑えきれず吹き出してしまった。 怪盗神父、チャーリーウッドは、威厳を出すために白髪のかつらをかぶり、さらに白く長い顎髭と、純白の立派なローブを用意したのだが、 元が、地回りヤクザのチャーリーウッドだ。借り物感が多すぎてどういても高位の聖職者には見えない。 と言っても、聖職者であるので偽物ではないが。 等のダキニラも純白の巫女服を着ているが、狐耳をピコピコ動かして闊達に笑う様子は本当に幸運神の巫女か疑いたくなるが。 「巫女殿、笑いどころではない。あの日記を見たところ、あの娘と相手の男が当てにした先は、人身売買組織だ。」 「つっ!!」 日記の赤裸々な内容にいたたまれず逃げ出してしまったダキニラだが、その言葉に表情が変わる。 「まだ、客分として留め置かれているだろうが、あまり時間は無い」 チャーリの格好は、相手にはったりを利かせるためだろうか。だけど、プロから見たらバレバレの格好、人身売買組織相手に・・・・・・ 「彼ら自身が納得したのでなければ、力で組織を黙らせても無駄だろう」 「そっか、そのありがたい格好は彼女たち向けってことね。」 素人の娘と駆け落ち相手には敬虔な老神父の格好の方が説得しやすい。あえてプロならば正体がバレバレな変装の意味は・・・・・・。 「脅しだね。」 こっちは怪盗神父で、盗賊巫女だ。当然バックは付いているぞと。 「ああ、リリスにも声をかけて置いた。後ろに立っているだけだろうが」 「それで引くといいけどね」 「おっと、神父様方、何様ですか。ここはまっとうな口入や……」 入り口で制止しようとした門番のヤクザだが、一行の一番後ろにいたリリスに気付く。 「こちらに滞在している人に、お言葉があります。」 ダキニラが、老神官風のチャーリーウッドを恭しく紹介する。 勿論門番は、チャーリーウッドのバレバレな変装に気づいたが、リリスの眼光に気づいて何もできず、導きいれるほかなかった。 「まあ、お母様もお父様も、無理に家に帰りなさいとはおっしゃっていないのです」 老神官に化けたチャーリが、駆け落ちした娘とその相手の若い男に言う。 「だた、どんな小さな稼ぎでもよいからまともに働いてお金を得ることができたのならば、二人の結婚を認めるとおっしゃっています。」 家族の依頼によって、連れ戻しに来たわけではない。普通に暮らせるのならば良い、という伝言を持ってきたという体だ。 「もし、簡単にお仕事が見つからないようでしたら、幸運神の神殿で、紹介できますよ」 ダキニラは老神父の付き人の巫女と言った風情で言葉を添える。 背後に控える、口入屋という名の人身売買組織の面々は腰を浮かしかけるが……。 リリスの眼光が鋭くなると、椅子に座り直した。 「まあ、どうするかはあんたらの自由だ。完全に両親と縁を切るっていうのも、自由だ。少し離れてちゃんとてめえらで暮らせるようになって、あいさつしに行くっていうのも自由だ」 リリスの言葉に、人身売買組織の面々は力が抜けたように、椅子に座り込む。 駆け落ちカップルが選んだのは、リリスの後者の言葉だった。