1 / 5
魔弓の射手
「まったく、プーにゃんはあれで本当にクマさんなのかね~」 チェルキーは、ぶつぶつ文句を言いながら森の中を散策している 王都近郊の森に、料理に使うハーブを採りに来たのだ。 必要な食材を自前で集めるなんてお手の物。 相棒のプーにゃんも、クマ獣人でレンジャーでもあるから普段二人で採集するのだが……。 「あの位のお酒であっさりのされるなんてねえ~」 昨日の忘年会で、火酒ドワーフスレイヤーを煽って、クマさん轟沈であった。 ひっく、熱いジュースだクマ…… クママ?チェルキーが3人いるクマ? ドワーフでも酔い潰すという強烈な火酒なので、無理もないが。 お酒に毒消しを使うと、デリシア様が臍を曲げるので、キュアポイズン(毒消し)の魔法はお預けで、ベットに放置である。 その割には悪酔いした様子ではなく、幸せそうにすやすや寝ていたプーにゃんであったが。 「さ~てと、本日のハーブはっと……? あれ?」 草木の繁茂がやけに増している気がする。 元からあった細い道を覆い隠さんばかりになっている。 「おかしいね。ここまで、歩きにくかったかな?」 ドワーフにしてはかなり背が高いといっても、小柄なヒューマン女性並みの身長のチェルキーだ。 少しでも歩きやすいところを迂回しようとして。 その瞬間だった。 鋭い風切り音と共に何かが飛来する。 (避けれない・・・・・) 藪をよけようと踏み出したタイミングを狙っている。 暗い森の中、かすかな光が煌めいた気がした。 「風が騒いでいるわね…… あっ!!」 すぐ近くにいたらしい、賢者の学院の制服を着た女生徒が、何かに気づいて叫びを上げる ガシッ!! 「いたずらにしては物騒だね」 飛んできた矢を空中で握りしめながら呟くチェルキー。 チェルキーの掌のなかで、簡素な矢が、魔法光を発しながらへし折られる。 「これは・・・・・・、精霊魔法か」 シュートアロー、弓ではなく風精霊の力を借りて矢を飛ばす必中の魔弾だ そこに、鳥ではない力強い羽音がする。 「だっ、大丈夫ですか!! ピクシー(小妖精)がひどい悪戯を!!」 赤いマントを翻し、七色の蝶の羽根を羽ばたかせて駆け寄ってくる。 木漏れ日を反射して、周囲に虹色の光が踊り舞う。 フェアリーだ。 昆虫のような羽が生えていて、サイズは人間やエルフと同様で知性も高く、人間の社会にかかわって生活する者たちもいる。 彼女は、その中でもかなり進歩的で、賢者の学院に通っているらしい。 「ひうっ!!」 彼女は、チェルキーが握りしめた矢の先端が、胸に刺さっているのをみて息を飲む。 「たっ!!大変!!ヒーリングを!!」 「大丈夫だよ」 息せき切って魔法を掛けようとするフェアリーを、安心させるように押しとどめるチェルキー。 そこで、フェアリーは目の前の緑髪の可憐な容姿のエルフ?が、やけに頑強そうで分厚い皮鎧を着ていることに気づいた。 「ドワーフはあまり森には入らないからね。珍しいかな」 ピクシーが放った魔弾の矢は、革鎧に小さな穴をあけただけで掴み取られていた。