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清らかな水?
「おっ、見ろよ。エルフの女だ!!」 「ひひひ、べっぴんさんじゃねーか」 「おう、姉さん、よく来たな。俺のおごりだ。一杯やってくれ」 情報収集のために安酒場を訪れたアーゼリンに、男たちが絡んでくる。 見た目も行動も下品で下劣なチンピラどもだ。 アーゼリンの顔を知らない時点で、程度が知れているが。 「おう、あねさん、俺らみたいなクズの酒は飲めねーってか」 「……、ああ頂こう」 何か良からぬものが入っているのは、確かめるまでも魔法を使うまでもない。 「酒と出会いに感謝を『水乙女』麗しき喜びの水『清き力』よ」 アーゼリンは携えていたリュートをかき鳴らし、酒に関する感謝の詩を一フレーズだけ呟く。 詩に合わせて少し変な響きの句が混じっていたのだが、愚鈍なチンピラどもは気付かない。 美しき褐色の吟遊詩人は、リュートを置くと、怪しげなグラスに入った液体を一気に飲み干した。 「うまい水だな・・・・・」 その様子をぽかんと見つめるチンピラども。 要らんものが入っていた以上に、かなり強い火酒だったのだ。 「さて、マスターに合わせてもらおうか」 「わっ、わかった……」 気おされたチンピラどもは、手近にあった酒をあおり、動揺を抑えようとして。 「なっ、なんだ!?水だぞ」 「んなばかな、さっきまで酒だったぞ!!」 「ただの水になってるぞ!!」 あちこちのテーブルから驚愕の声が上がる。 アーゼリンはそんなチンピラどもをよそに、力を借りた水乙女(ウンディーネ)に手を振ると、マスターに会いに席を立ち上がった。