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妄想健在メイド騎士
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「そうゆうわけで、どうも、その女学院の生徒の間で、危険な薬が流れているのは確からしいの」 ダキニラが、シルビアとブロントを相手に、調査結果を報告する。 女学院への潜入任務は、そもそもこの頃裏町ではやっている危険な薬物売買に、女学園の生徒が関わっているらしいとのタレコミが発端だ。 裏町を調べたのは、ダキニラと母親のダークエルフ、アーゼリンだ。 もっとも、アーゼリンは盗賊ではないので完全に裏での調査は難しい。 裏町で正々堂々と正面から乗り込む必要があった。 ようは囮、陽動役だ。 酒場の酒を全部水に変える、よくわからん悪戯も、陽動だったかもしれない。 「女学院が薬の元締め? う~ん。 女学院は魔法薬はそれほど得意じゃないと思うけど。 あそこは、貴族や大商家のお嬢さんばかりだからね」 賢者の学院の准導師である、シルビアが首をひねる。 彼女はソーサラにして賢者の技能を持っていて、薬学・魔法薬に関する知識もかなりのものだ。 この王国で、魔法や各種学問の最高峰は、やはり賢者の学院だ。 女学院は文字通り、上流階級の淑女の教育に力を入れている。 「うんにゃ、そんな狭苦しいとこに、若い奴らが閉じ込められてちゃあ、何するかわからんぞ。 変にこじらせた奴はいるかもしれん。 それに、外からはなにが起こってんのかわからんからな。」 ブロントが、シルビアの言葉を否定する。 「そうなると、ブロントが女装で潜入なんて無理なんじゃ……」 そんな、若い女性だけの監獄に、女装して若い男が潜入、普通ばれるのでは。 「それに関しては、ちょっと当てがあるよ……。 二人で潜入すれば、互いにサポートできるかも。 丁度来たみたい」 いち早く足音を聞き取ったダキニラが答える。 メイド服の上に部分的な鎧を付けた少女が部屋の中に入ってきた。 「ごきげんよう。シルビア王孫殿下」 形だけ部屋の主であるシルビアに頭を下げる。 とそこで、部屋中を見渡して。 「見下げ果てた男だ。 女装して悦に入るとは。 美しいのは見た目だけだな。 外面を飾ったところで、亜人の下劣な品性をたばかることはできないぞ 」 任務の打ち合わせのために、女装姿だったブロントに目を据える。 「貴様、その美しい顔と、女性でも賞賛する見事な着こなしで人を陥れようとしても、 そうはこの私が、いや女王陛下が、もとい、神が許さないぞ」 入ってくるなり、賞賛だか侮蔑だかわからない言葉を並び立てるメイド騎士。 この頃、ブロントの友人であるオークの戦士ゴルドンと、女学生のような微笑ましい、お菓子作りの交友を続けているメイドことエルザベータだ。 「メイドちゃんよ。おれらは仕事の話をしてるんだよ。騎士ごっこはよそでやってくれ」 さめた口調でいさめるブロントだが。 「何を!!無礼な!!私はこう見えても、正式にデイム(女性騎士)の称号を賜っている。 魔法も剣も、そして知識もそこらの冒険者には負けぬ!!」 いつぞやブロントに素手で杖を奪われたのは忘れたらしい。 「それに、我が母校の問題だ。首席で卒業した身としては、人任せにはできぬ!!」 (声かけといてなんだけど、大丈夫かな。剣は並の冒険者以上に使うみたいだけど) ダキニラとシルビアは小声でささやき合う。 (私も彼女は知っているわ。一人前の魔術師ではあるわね。才能があるのは確かね) 賢者の学院の最年少の准導師で、100年に一人の天才とよばれるシルビアが言ってもあまり説得力がないが。 「おっ、おう、そりゃすごいな、よろしく頼むわ……」 「ふん、貴様に組するわけではない。我が母校と任務のためだ」 (これまた見事な囮役だな。しかし、ダチの嫁になるかもしれん。傷一つ付けられんな) (ブロント、なんて見事で美しい女装なの。お姉さまと呼んじゃいそう。 はっ、もしかしてゴルドン様もわたしよりブロントの方が好みなのかしら。 屈強なオークと、女と見間違う美しいエルフ、お似合いかも……、 いっ、いいえ!!美しくても男には負けないわ!!) 即席コンビは、それぞれ全く別の事を考えていた。