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暖かな氷雪
「こ~の、妖怪ジジイ!!今日こそ引導を渡してやるわ!! "Fyrnathas irè lûmis caereth, Elthari nyssar velmora ethrelis, Caldrion tirnath en vorys o'deiras, Aenar! Thrylorn erannis brivara!"」 シルビアの古代語の詠唱と共に、猛烈な風雪が、妖怪、もとい賢者の学院最高導師を襲う。 「かかか、シィルちゃん、真夏には重宝するの。なかなか肌理の細かなかき氷じゃわい。 そうよの。おんしの、その肌のようじゃわい」 「なっ、なな。妖怪ジジイ!!いつか、そのうっとうしい髪と髭むしり取って禿げにしてやる!!」 シルビアは、准導師の口にはふさわしくない捨て台詞をと共に、泣きながら魔法を使って飛び去ってしまった。 ドシャ。 シルビアが飛び去ると同時に、雪面に無様に突っ伏した最高導師、オールドスレイマン。 「スレイ・・・・・・、大丈夫か」 そこに、低いながらも澄んだ染み渡る様な声が掛けられる。 「なっ、なに、このぐらいは・・・・・・」 ダークエルフの美女の前で威厳を取り繕うように立ち上がろうとするが。 「無茶をするなスレイ……」 『Elunara viansa, Sylphine aethar, Lathriel myona, Eriana iluviel. Naithir salvos, Lumina fariel, Arwen thalos, Vielorna elessar.』 アーゼリンが、地面に突っ伏した体に触れて何ごとか呟くと、その褐色の手のひらから広がる仄かな淡い光と共に、老人の血色が戻ってくる。 「かかか、おんしに癒してもらう役得と比べれば、このぐらいの風雪は氷菓子のようなものじゃ」 「スレイ!!」 飄々とした言葉に一瞬、言葉を強めたアーゼリンだが。 「すまない。本当は私が導いてやらないといけないのだが。ダークエルフの母ではな……」 冷たい雪原に膝をついた。 「なに、おんしの娘ならば、わしにとっても子供みたいな物じゃわい」 「スレイ・・・・・」 アーゼリンはそれ以上は言わずに、黙って頭を下げるのだった。