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天国の席
いけない。 数が多いし、奴らの腕も素人じゃない・・・・・・。 ダキニラは、盗賊ギルドメンバーと共に、人身売買組織の内偵中に、敵対組織に補足されてしまった。 罠だったのだ。 すでに全員が手傷を追っている。 盗賊主体のメンバーでは、相手に戦士や魔法使いがいた場合にかなり分が悪い。 ダキニラの神聖魔法もすでに打ち止めた。 まだ戦っているギルドメンバーがお互い顔を見合わせてうなずき合う。 「ダキニラ!!逃げろ!!ここは俺たちが時間を稼ぐ!!」 「ばっ、馬鹿言わないでよ!!私も戦うよ!!」 「巫女様・・・・・、神様に、天国の席を木箱でいいからくれるように頼んでくれ!!」 それだけ言うと、盗賊たちは武器を構えて敵に向き直る。 「もっ、もう、助けを呼んでくるから!!死なないで!!」 ダキニラは、泣きながら走り出す。 「あいつが奴らの神官だ!!追え!!逃がすな!!」 敵の頭目が大声で叫ぶ中。 「行かさねーぜ・・・・・」 「巫女様に何かあったら、俺たち地獄にも行けねーよ」 「俺たち殺してからにしな!!」 ギルドメンバーは、ダキニラをかばい、数も腕も勝る相手に立ちふさがる。 「俺は・・・・・・、死んだのか・・・・・・」 ギルドメンバーのうち、一番年かさの男が起き上がる。 辺りは、白く輝く雲が漂い、空から差した七色の光を照り返している。 霧の隙間に色とりどりの花が咲いているのが解る。 と、そこに光輝く大きな何かが沸き起こったのが分かった。 「ひっ!!めっ、女神様!!」 顔どころか、姿さえも良く見えないが、盗賊には彼らが中途半端ながらも信仰している幸運神そのものであることが、圧倒的存在感と力で感じ取れた。 『天に 汝らの席 いまだ無し』 大いなる存在に圧倒されながらも、盗賊はその意味を感じ取り。 「みんな無事!!」 ダキニラが、オークの兄妹を引き連れて駆け戻ってくる。 「子供をかどわかしたのは貴様らか!!許さん!!」 オークの戦士が、大剣を振りかざしながら咆哮を挙げる。 「身の弱さを知りながら、仲間のために命を捨てる勇者達よ、戦の神は貴殿らに力を貸す」 戦巫女が聖印を握りしめながら大戦斧を振りかぶる。 中年の盗賊は、ダキニラの泣き笑いの顔を見ながら、自分達の瀕死の重傷が癒えていくのを感じた。 『幸運は 自らの行いで呼び寄せ 人に分け与える物なり』 幸運の女神の声は、盗賊の心に確かに響き渡った