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女王・盗賊ドヤ顔と
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「市民、チャーリー・ウッド及びその友人らよ、此度のその方らの働き見事であった」 王宮の、式典の間で、中年の新聞記者風の格好をした男と、その仲間たちが女王陛下直々のお言葉を賜っている。 「子供たちを毒牙にかける悪しき者どもを捕らえし事、この国の王、この街の長としてありがたく思うぞ。」 「あっ、はっ、はひ」 「どっ、どうも・・・・・・」 もともと、社会的に下層に属する新聞記者、しかも正体は偽装した盗賊ギルドに属する盗賊達だ。 バルコミーに立つ女王陛下のお姿を、目にすることもないような彼らは、ガチガチに緊張してまともに答えられない。 「身に余る光栄でございます」 ただ一人、年かさの中年の記者(に偽装した盗賊)は、堂々と受け答える。 美しき女王陛下や、居並ぶ貴族や役人、街の顔役を前にしても臆している様子が見えない。 彼等は、数日前に大規模な人身売買組織を追跡中に、身を挺して闘い、組織の摘発と子供たちの解放に貢献したのだ。 そのことにいたく感銘を受けた女王陛下直々にお褒めの言葉を賜ることになった。 「報奨金はとらせるが、他に何か希望があるようならば申してみよ」 お褒めの言葉と、賞金とは別に、何か褒美も下さるというのか。 盗賊たちは、恐れ多くて言葉に詰まったが。 「・・・・・・、願わくば、下町に小さな礼拝所を構える許可を戴きたく」 年かさの盗賊、チャーリー・ウッドが、望みを出した。 「ほう、幸運神の新たな使徒が生まれたとの話は誠であったか」 女王は感心したようにつぶやく。 「信仰は個人の心の問題故、王は関わらぬ定めではあるが。 よかろう。 朕個人として、礼拝所を建てる費えを寄進するとしよう。 私自身にも思い入れがありますから」 チャーリウッドは、女王の口調が少し変わったことに気づき、顔を上げる。 「あっ、あなたは、セリーちゃ・・・・・・、様」 「下町の民に幸運神の言葉を正しく伝えるが良い。ブラザー(修道士)ウッド」 新たに生まれた修道士は、年相応に悪戯っぽく笑う顔を見て、 女王陛下がかつて市井で暮らしていたという噂と、 盗賊ギルドの地回りとして、10数年前に気にかけていた、貧しい母娘の事を思い出した。 「ひひひ、ウッドの奴が女王陛下と知り合いだったとはな。善行は積んどくもんだぜ」 新聞社の編集長の表顔で取材していた、盗賊ギルドマスターはほくそ笑む。 いやらしい、ドヤ顔といって差し支えない。 ギルドマスターが、下町の人々に目を配り、取り柄のない中年盗賊に使いどころを見出していたのは事実だが。 「若くてかわいい巫女様と、酸いも甘いも嚙み分けるおっさんブラザー、悪かねえ二枚看板だぜ。 幸運は自らの行いで招き寄せ、人に分け与える物か。ちがいねえ~。 分け前もがっぽりだ」 『・・・・・・』 「おーっと、もちろん独り占めするつもりなんかね~よ」 ギルドマスターは神の声が聞こえたのか聞こえてないのか、ドヤ顔を続けるのだった。