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「新入生、歓迎する!」— 避けられるのに避けられないブロント少尉の華麗なる蹴り技講習会 (と謎儀式)
士官学校の門の前で、金髪ポニーテールの少女が不敵な笑みを浮かべていた。 「歓迎 新入生!!」 黒い軍服のプリーツスカート姿で堂々と掲げられたプラカードには、力強い筆跡でそう書かれている。その文字に惹き寄せられるように、純粋で希望に満ちた新入生たちは足を止めた。 「諸君たち、新入生ですか?」 「は、はい!」 「よいでしょう。では特別講習を受けてください」 その瞬間、新入生たちは避けられるはずの道をなぜか避けることができず、謎の吸引力に導かれるようにブロント少尉の蹴り技講習会へと引き込まれていった。 「さあ、各自準備運動は済ましたね?」 訓練場の一室。夜風が吹き込む窓の下で、ブロント少尉が腕を組み、新入生たちを見下ろしていた。 ちょっと雰囲気が変わって偉そうだ。 何かに引き寄せられる。 何かを目撃しなければならない。 訓練場の片隅——そこには、金色のポニーテールを揺らしながら、プリーツスカートの軍服姿で堂々と立つ ブロント少尉 の姿があった。 「士官候補生の諸君! 戦場での格闘戦において、蹴り技こそが勝負を決めるのです!」 ——そう、彼女は歓迎の言葉を告げる。 しかし、それはただの言葉ではない。 彼女の足が、流れるように宙を舞う。 前蹴り——直線的で鋭い蹴りが空を切り裂く。 裏回し蹴り——しなやかな脚が孤を描き、風を鳴らす。 後ろ回し蹴り——スカートの裾が美しく翻り、重力を忘れる。 ブラジリアンキック——「この角度から蹴りが飛んでくるとは思わなかったでしょう!」 新入生たちは、気がつけばその場に足を止め、見入っていた。 何も強制されてはいない。 彼女に命令権はない。 なのに、誰もが目を奪われ、知らぬ間に通過儀礼へと足を踏み入れていた——。 それから数週間。 夜の訓練場には奇妙な熱気が満ちていた。 「お前ら、踊る闇天使と戦いたいか?」 「はい!! はい!! はい!!」 士官候補生たちは、なぜか日を追うごとに熱狂的になっていた。 「よかろう。召喚する!」 ブロント少尉はニヤリと笑い、訓練場を出る。 次の瞬間―― 「ゴゴゴゴゴ…!!」 壁を駆け上がる音、そして天窓が激しく開く音。 「な、なんだ!?」 「!?」 「来るぞ!!」 天井から何かが降ってくる。 「闇天使だ!!」 その影は床にしなやかに着地し、長い手足を蜘蛛のように伸ばしながら地を這うように動いた。 そして、ゆっくりと顔を上げる。 その顔は、狂気に染まった演技がかった表情のブロント少尉だった。 「あたしを~!! あたしを!! アンジェと呼ばないで!!」 「闇天使!!」 「闇天様!!」 「今日こそやっつける!!」 士官候補生たちは叫び、次々と突撃を開始する。 「ふははは! あたしを! あたしを!! アンジェと呼ばないでぇ!!」 士官候補生たちは次々と立ち向かうが、誰一人として彼女の華麗なる蹴り技を受け止めることができない。 ブロント少尉はまるで舞うように跳び、回し蹴り、膝蹴り、足払い、そして謎の足技を次々と繰り出す。 「ぐあっ!!」 「まだまだ!!」 「はぁぁぁぁ!!」 無数の士官候補生たちが床へ叩きつけられていく。 彼らは知らない。なぜか避けられない攻撃、なぜか抗えない吸引力、なぜか高まる崇拝の念。 それが、ブロント少尉の蹴り技講習会の真の目的であることを。 夜の訓練場には静寂が満ちていた。だが、その空気は異様な熱を孕んでいる。 無数の影が地面に転がっていた。 士官候補生たち――いや、ほんの数十分前まで気合に満ちていた彼らは、今や動かぬ肉塊と化していた。あちこちで呻き声が聞こえるが、それは自分がまだ意識を保っていることを確認するための最後のあがきに過ぎなかった。 そんな中、ただ一人、すらりとしたシルエットが立っていた。 金色のポニーテールが夜風に揺れる。黒の軍服に身を包み、プリーツスカートが僅かに揺らめく。白く長い脚はまるで彫刻のように美しく、夜闇の中でも輝いて見えた。 彼女――ブロント少尉は、両手を腰に当て、満足げに頷いた。 「ふっ……いい汗かいた~!」 月光が彼女の顔を照らす。輝くような美貌。凛々しい眉、意志の強い瞳。しかし、その表情はどこか無邪気で、まるで「ちょっと運動しただけ」とでも言いたげだった。 だが、その「ちょっと運動」の結果がこれだった。 静かに転がる十数人の士官候補生たち。 彼らは知った。なぜか避けられない攻撃、なぜか抗えない吸引力、なぜか高まる崇拝の念――それこそがブロント少尉の蹴り技講習会の真の恐怖であることを。 そんな惨状を余所に、ブロント少尉は額の汗を拭い、爽やかな笑顔を浮かべた。 「さて、そろそろおやつ食べよ……」 そう呟きながら、彼女は颯爽と夜の闇へと歩き出した。 ――その頃。 「……これは……なんなの……?」 ブロント少尉の私室。富士見二等軍曹は、そこに残されていた一冊の漫画を見つめていた。 『シグマトライブ・士官学校洗脳計画』 中には、まさに今士官候補生たちが受けているような謎の訓練が描かれていた。 「やばい……また、妙なことを企んでる……!!」 富士見軍曹は不安に駆られ、訓練場へと駆け出した。 そして彼女が目にしたのは、すでに意識を失って、なぜか非常に満足げに、あたかも天使に抱かれているかのような恍惚とした表情で、 床に転がる士官候補生たちの姿だった……。 「遅かったか……」 富士見軍曹は、頭を抱えた