1 / 9
偏見妄想チョコミント
「くっ、やはり私の直感は正しかった」 王城の執務室で何やらメイドさんが叫んでいる。 「やはり、あのオークの正体は悪辣な魔王だったのだ」 メイドさんの手には、新聞が握られている。 確かにそこに映っているオークの魔道写真は、まさに魔王を体現したかのような恐ろしい気な風貌だったが。 「一時的にも、オークに感心してしまったなど、自分が情けない!!」 見た目とは違い理知的で紳士的なオークに以前、好感、もとい、共感を覚えそうになったことをメイドさんは恥じていた。 「わたしが、あのゴルドンさ・・・・・、野獣そのものの体に、人間以上に理知的で紳士的な、下劣なオークを打倒するしかないのだ」 拳を振り上げて気勢を上げるメイドさん。 その拍子に、床に落ちた新聞を踏んでその場でずっこけた。 「あいったったた・・・・・・、なんと狡猾な。いかに私とは言え、肉体だけではなく知性にも優れたゴルドンさ・・・・・・、下劣なオークに策を巡らされたら後れを取るかもしれない」 尻もちをついたまま続ける妄想、妄想もとい思考をづづけるメイドさん。 「もっ、もしそうなっても、望むところだ。我が伯爵家は王国の盾、私は女王様の最後の守り。私の純潔でこの国と陛下が守れるならば安いものだ。だが……、組み敷かれることを前提というのも……、どうする?」 メイドさんは真面目な顔で思考にふける。 「野獣相手に正々堂々と戦う必要もあるまい。よし。野獣を捕まえるにはまず胃袋からという。」 メイドさんは、新聞の、子供向けの記事に映ったゴルドンの写真の上で、尻もちをついたまま決意をあらわにするのだった。 次の日 「お待ちしておりまたわ。ゴルドン様」 メイドさんは、アーゼリンの共で王城に現れたゴルドンをひきつった笑顔で出迎える。 「ゴルドン様。アーゼリン様の御用が済むまでこちらでご寛ぎくださいませ」 「……ああ、侍女殿。かたじけない」 ひきつった笑顔が、自分の名前を呼ぶときだけ和らぐのを不思議に思いながら、ゴルドンは招きに応じる。 「本日は春が来たかのような陽気ですね。時季外れとは存じますが、私めが作りました氷菓などいかがでしょうか。」 メイドさんは、優雅な仕草でゴルドンの前のテーブルに、グラスに入ったチョコミントアイスを静かに置く。 「……ああ、頂くとしよう……」 くくく、馬鹿め。そのアイスの中には、たっぷり薬が持ってある。いくら表面上人の皮を被ろうが、野獣の本性がむき出しになる劇薬だ。 アイスの冷たさと甘さで薬の味などわかるまい。 この場でその本性のまま暴れ回ったらどうなると思う……。 どうなるのかメイドさんもあえて明確に考えていない。 さあ、食え、すべてを食らうが良い。 「ぬっ、これは!!」 一口含んで叫び声をあげるゴルドン。 「うまい。食べる者の事を思って作られているのがよくわかる。 冷却するのに魔法を使われたな。わずかな魔法の残滓からも作り手の心持が伝わるというものだ」 凶相をゆがめて微笑みながら、アイスを食べるゴルドンの様子に。 (わっ、わたしの魔力が、すべての根源が食べられちゃう……) メイドさんの顔は燃え上がるように真っ赤になった。 「馳走になった。大変美味であった」 「おっ、お口に合ったようでよかったです」 瞬く間にと言うわけではなかったが、アイスを食べ終わって退出するゴルドンを、どこかぼんやりした顔で答えるメイドさん。 「我も菓子作りをたしなむのでな。次はわれが馳走したいものだ」 「たっ、楽しみにしております」 ぼおっとしたままゴルドンを送り出したメイドさんは、我に返ると。 「おかしいわね。象にも効く魔法薬のはずなのに。入れ間違えたかしら」 ゴルドンの器に残ったわずかなアイスを指ですくってなめとると……。 メイドさんの体は瞬時に熱くなり…… 「ごっ、ゴルドン様~!!お慕い申しております~!!」 メイドさんは自分の本性を抑えることができなかった。