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学生のレポート「プリズムベンベ」
プリズムベンベは、現存すら定かではない超希少種の魔物である。そもそも写真自体が存在せず、外観を視覚的に表した資料と言えば目撃証言を元に作成された想像図のみしかない。その目撃証言さえも振れ幅が大きく証言の食い違いが多数あるため、実際には存在しなかったのではないかという説も唱えられている。 目撃証言を統合した結果、体高はおおむね3.5~4m程度だが首が長く、体長は10mはあったとされる。体格からして歩行は4足歩行と思われるが、2足歩行していたという話もあるため、立ち上がる事が出来たのかもしれない。目撃談があったのはいずれも熱帯雨林の湖沼地帯の近くであったため、高温多湿の環境を好むのだろう。普段目撃されないのは、もしかしたら水中を主として暮らしており、移動や食事以外では地上に上がってこないのではないかと私は考えているが、物証に乏しいため推測の域を出ない。 プリズムベンベの体格や生態は上記のようなものと想像されるが、目撃証言の中に必ず登場する特徴がある。それは『体表が虹色に輝いている』事である。動く度に太陽の光を眩く反射して輝くとしている記述もあれば、全身に宝石を纏っていたという一文もあり、その真偽ははっきりしない。しかしどの目撃談でも共通する以上、虹色の魔物ではあるはずだ。もしもこの魔物を狩猟できれば、その体にはいかほどの価値が付くのか想像も付かない。 文献を読み漁る内、私はある冒険者の走り書きに目を留めた。誰が書いたものなのかすら不明だが、約50~40年ほど前の記録だ。壮年の男剣士、エルフの女賢者、若い男弓兵の3人でパーティを組んだ冒険者がプリズムベンベと思われる魔物と交戦した際の覚書のようである。残念な事に、杜撰な者ばかりだったのであろうこのパーティは魔物の外見的特徴にほとんど触れず、戦いの経緯しか残していない。そのためプリズムベンベについての記述とは断定できないが、『見た事も無い希少種と判断し討伐を開始』『虹色の巨体は硬く、城壁すら切り裂く剣の一撃をはじき返した』『賢者の放った光の呪文はかの魔物の輝く体表に拡散反射され、パーティは壊滅的な痛手を被った』など、プリズムベンベを指しているのではないかと思われる記述が見られるため、私の興味をそそったのだ。戦いは苦しい局面が続いたようだが、『弓兵の神懸かり的な狙撃により眼球を打ち抜いて脳を破壊して討伐し、その血肉は長い戦いで飢えていた3人で喰らい尽くした』と締めくくられており、どうやら討伐したものの冒険者ギルドに報告もせずにぺろりと平らげてしまったようである。あまりにも愚かな行いだ。冒険者には魔物の学術的価値など分からないということだろう。 ミリシラ先生に上記のレポートを提出した結果、「希少な魔物を取り扱うのは構わぬが、如何せん資料の根拠が希薄じゃな。あと方針がはっきりしておらん。魔物の生態に着目するのか、魔物としての戦闘能力に着目するのかどちらかにせい」と再提出を要求された。先生の指摘はもっともである。プリズムベンベについては生涯のテーマにしておいて、レポートはもっとポピュラーな魔物でまとめ直そうと思う。 ※プリズムベンベの元ネタは『プリズム』+『モケーレ・ムベンベ』です。レインボーのお題という事で何か魔物を考えようかなと思い、虹色っぽいモチーフでまずプリズムが浮かび、そこにくっつける適当な生物を考えていたらモケーレ・ムベンベが思い浮かびました。そこでモケーレ・ムベンベを調べてみたら、『「モケーレ・ムベンベ」は標準語リンガラ語の名称で、最も一般的な解釈は「川の流れをせきとめるもの」の意味であるといわれる。実際にそのような習性も言い伝えられている。しかし単に「虹」を意味する語だとも言われている。』という文章も見つかったので、もうレインボーにふさわしい魔物はモケーレ・ムベンベしかないと思ってこんな話を作りました。