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外伝『ファンタジスタ・ヒマリ』
(ボールに光が当たって反射し、七色の虹が生まれる。そしてナレーションが聞こえてくる) そのボールからは、いくつものドラマが生まれてきた。今日はその一つを紹介しよう。 これはある少女が、ファンタジスタと呼ばれるに至るきっかけとなった試合。その決着の瞬間だ。 (虹色の光に向かってカメラがズームアップ) (場面は切り替わり、サッカー地区大会決勝戦の様子になる) さあ、ここでボールがインコーダに渡る!全国行きを賭けたこの試合、残り時間僅かの中2-2で迎えたコネサンス魔法学園これが最後の攻撃チャンスか!?フィールドをぐんぐん上がる、追いすがるディフェンダーたちをかわせるか、コネサンス唯一の女子選手にしてエースストライカー、ヒマリ・インコーダ! 「ヒマリさーん、ふぁいとですー!」 気まぐれに応援団に紛れ込んだラファエル様の熱い声援を受けて、華麗なステップでゴール前へ躍り出たぞ!そのままシュート!決まるか!?いや駄目だ、ここでキーパーがゴールにバリアを張る!バリアに弾かれたボールは勢いよくコネサンスのゴールに向けて飛んでいくぞ!絶体絶命だ! 「計算通りです!」 おおっと、どうした!?飛んでいたボールが消えてしまったぞ!解説のミリシラ様、これは一体!? 「何の事は無いわい。単にヒマリはシュートするフリをして幻覚魔法を飛ばしたんじゃ。それが跳ね返されたとして、元々実体が無いんじゃから時間が立てば消えるわい。本物のボールはほれ、ゴールネットに突き刺さっておるぞ」 あーっと、何という事だ!インコーダ、幻覚魔法を駆使してキーパーのバリアをやり過ごし、バリアが消えた後のゴールに実質フリーキックのシュートを決めていた!ここで試合終了のホイッスルが鳴る、やりましたコネサンス魔法学園、全国への切符を手にした!インコーダ喜びのゴールパフォーマンス!チームメイトも駆け寄ってハグを・・・いやインコーダ、ハグを拒否しています。どうしたのでしょう。 「そりゃお主、ハグなんてされたらたわわな二つのボールが男子どもの胸板にゴールしてしまうからに決まっとるじゃろ」 ・・・えー、会場の皆様、ただいまミリシラ様より大変おっさん臭い発言がありました事をお詫び申し上げます。歓声に掻き消されてよく聞こえませんが、インコーダもミリシラ様を指さして声を荒げているようです!あ、かすかに聞こえた内容からすると『私今汗かいてるから拒否っただけです!』って言っているようです!女の子らしい恥じらいですね、可愛い!好きだ!付き合ってくださいヒマリちゃん! 「お主こそ実況に私情乗せとる事を詫びんかい」 大変失礼しました。えー、おほん。たった今選手たちが整列し試合終了が宣言されました。この試合は3-2でコネサンス魔法学園の勝利となりましたが、なんとインコーダ、これで3試合連続でハットトリックを決めています!得意の幻覚魔法を活かしたシュートやドリブルはプロ顔負けの完成度、まさにフィールドの魔術師・・・いや、もうこれはファンタジスタと言ってもいいでしょう!会場の皆様も異論は無いと思われますがいかがでしょうか!? 「「「ファンタジスタ!ファンタジスタ!ファンタジスタ!」」」 (観客のやまない声援の中、画面がフェードアウトしていく) 「・・・うぅ、違いますよぉ。私はファンタジスタじゃなくてファッショニスタ・・・」 朝の光差し込む自室で、ヒマリ・インコーダは寝言を漏らした。そう、ここまでの全ては彼女の見た夢であった。そもそも彼女の生きるこの世界にサッカーが存在しないのだからそれも当然と言えば当然ではある。しかし、今はサッカーが無いだけで、これから生まれるかもしれない。この夢が現実になる可能性はまだ否定されてはいないのだ。