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学生のレポート「バニートラップ」
バニートラップは人間や獣人に多大な害をなす、極めて危険な魔物である。外見はウサギ系の獣人(ビースト)族に酷似しており、その生態のせいでウサギ系獣人たちが長らく誤解・差別・迫害を受ける原因を作った。毛色は白・茶・黒系統だが、毛色による生態の差異はない。 その生態とは、自分の寝床に他種族の異性を連れ込み、呪いで人参に変えて貪り喰らうという非道なものである。狩りの方法はメスとオスで異なる。 メスの場合は、簡素な衣類をまとって男性の前に現れ、扇情的なポーズをとったり衣服をはだけて見せたりして誘惑する。男性が誘いに乗ってくると自分の寝床まで案内するのだ。 オスの場合は、露出が多く肉体美を見せつけるような格好で縄張りをうろつき、時には何も着ていない個体がいる事もあるという。女性を見つけるとその強靭な脚力を活かして走り寄り、力ずくで捕まえて寝床に引きずり込む。 メス・オス共に、寝床に連れ込んだ後は数十分にわたって獲物と素肌をこすり合わせる。そうするうちに、獲物の肉体は大きな人参へと変えられてしまうのだ。危険すぎて研究が進まずこの現象の詳細は不明だが、バニートラップの体表ににじみ出る汗のような体液にその秘密があるのでは、という説が有力である。 こうした生態の事から人的被害が極めて大きく、前述したようにウサギ系獣人と混同された事から、かつて『ウサギ狩り』という凄惨な迫害事件も起きた。強い呪い耐性を持つ研究者が、あえてバニートラップの罠にかかったりする事で研究が進んだ今では『バニートラップは言語を話せない』という特徴も判明したが、病気などで言語を話せないウサギ系獣人もいる事から、依然としてそれだけで見分けるのは難しい。現在、ウサギ系獣人は身分証を肌身離さず持っていなければバニートラップに間違われる危険もある。それくらい我々の生活に影響を与える魔物なのだ。 厄介な事に、近年ではメスのバニートラップの狩りに変化が見られる。あえて服を傷つけたり、涙ぐむ表情をしたりして、あたかも『乱暴されたウサギ系獣人の少女』のように振舞う個体がいるのだ。心配したり、下心を持って近づいた男性をその場で襲って人参に変えてしまうなど、より危険性の高い個体のため、冒険者ギルドをはじめとして注意喚起が行われている。 それでもなぜか、メスのバニートラップによって命を落とす男性の数は毎年ほとんど減少しないという。オスのバニートラップは抵抗されて狩りに失敗する事もあるのに、メスの狩りの成功率は非常に高いらしい。ミリシラ先生と議論する機会に恵まれたのでご意見をいただいたところ、「男なんて結局乳の誘惑に勝てんからじゃろ」という非常にストレートな発言をなされた。なんでもミリシラ先生がかつて冒険者だった頃、戦闘で魔力を使い果たして子供の姿で道端に座り込み休んでいた際に、オスのバニートラップの一団に遭遇してしまい、死を覚悟したことがあったという。ところがオスたちはミリシラ先生に見向きもせず立ち去ったそうだ。その後、ミリシラ先生は宿屋に帰る事ができ、一晩休んだ後で真の姿に戻って昨日のオスバニートラップと遭遇した地点に向かったところ、今度はオスが入れ食いのように向かってきたという。ミリシラ先生は「乳か!結局乳か!」とキレ散らかしながら全てのオスバニートラップを討伐したそうだ。 それとこれとは関係ないような気もするが、確かにバニートラップのメスの容姿は魅力的だ。寝床に誘われれば、罠と分かっていても乗ってしまうかもしれない。結局のところ、一番の危険は自分自身の欲望そのもの、という事なのだろう。