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桜一文字さん修業時代
ある日の午後、晶さんが私を訪ねてきました。なんでも今度『金剛院メイド部隊新入隊員募集』の告知をしたいらしく、どの写真を使ったら効果的か相談したいとの事。メイン画像はもう決まっていて、それが1枚目のこれだそうです。 この1枚目、元々は右側の少女(少女時代の桜一文字さん)しか映っていなかったものを金剛院家の技術で編集したもので、人物を複製してAIで年齢をアップさせて左のスペースに合成したものだとか。なんかすごい事やってるな・・・。何も知らなかったら桜一文字さんとその妹さんに見えたかもしれないです。つまり訓練課程のビフォーアフターってイメージの画像なんですね、この1枚目。 というか、そもそもの話。メイド部隊って軍隊なのでしょうか。 「家事全般以外にも一通りの護身術やSPとしての訓練を受けさせておりますわ。中でも桜一文字はデルタフォース訓練課程に相当するレベルのものを修了した一流の人材ですの」 「・・・以前に私は、夜の一人カラオケをする彼女を心配して屋敷まで送りましたが、そんな必要無かったみたいですね」 私が恥じ入りながらそう告げると、晶さんはくすっと笑いました。 「あの子、早渚さんに送ってもらったのがとても嬉しかったみたいですわよ。なまじ周りが桜一文字の凄さを知っているもので、か弱い女の子みたいに扱われる事はありませんから。守ろうとしてもらえるのは新鮮だったのでしょうね」 そう言う晶さんは穏やかで優しい目をしていました。晶さんと桜一文字さんの間には、やっぱり何か特別な絆があるのでしょう。 「早渚さんにはお話ししていませんでしたわね。桜一文字家は元々貴族の家系で、わたくしと桜一文字は同い年の幼馴染ですの。出会った頃は『あきらちゃん』『かりんちゃん』と呼び合う仲でしたが、とある国際テロ組織のやった事で桜一文字家の財政が傾き、親交のあった金剛院グループが桜一文字家を助けるためにそのほとんどを傘下に収めた事で、桜一文字花梨はわたくしの従者として生きることになったのですわ」 「だから晶さんと桜一文字さんは関係性に若干のフランクさが見て取れるんですね。いいですね、そういう相手がいるのは」 「ふふ・・・そうですわね。ああ、話が脱線してしまいましたわね。本題に戻りましょうか」 そうだった、使う写真を選ばないと。私は晶さんが持参した数十枚の候補の中から、数点の写真をピックアップしました。その他に、個人的に写真をもらえないか交渉して、桜一文字さんが単独で映っているものを全部手に入れました(2枚目と3枚目)。 「早渚さんの事ですから妙な事に使わないとは思いますが、一応目的をお聞かせ願いたいところですわね」 「いや、使うというか・・・少女時代の桜一文字さんって、シンプルに愛らしいじゃないですか。見てるだけで癒されませんか?」 「・・・年端もいかない少女の方がお好き、という意味ではないでしょうね?」 「違いますよ!?」 その日の夜、インターフォンが鳴ったので出てみると、顔を真っ赤にして俯いた桜一文字さんがいました。私のシャツの裾をつまみながら消え入りそうな声で 「・・・写真返してください」 って言うので、可哀そうだから返してあげました。まあ、もう複製はとってありましたし。