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偏見妄想メイド
「貴様!!なぜオークがここにいる!!」 「ぬう?」 いきなりかけられた罵声にゴルドンが振り返ると、メイド服を着た、金髪をショートカットにした気の強そうな少女が立っていた。 魔法の杖をぬいて、腰にはショートソードを佩いている。 「ここは、王城だ。貴様の様な薄汚い亜人が入っていい場所ではない!!」 王宮付き、それも高位の貴族から行儀見習いで奉仕している娘のようだ。 オークの戦士であるゴルドンに対しても臆する様子がない。 それなりに、魔法と剣に自信があるようだ。 「落ち着かれよ。侍女殿……」 「大方、さらう女の物色でもしに来たのだろうが、そんな真似はさせぬぞ!!」 メイド少女が、杖を構えて魔法の詠唱を始めたところで。 『静粛(セイレンス)』 若い男の声が不思議な旋律を持って響いた。 「俺は、おしゃべりな可愛い子ちゃんを黙らせる方法を、何個も知っているんでね」 「・・・・・・」 エルフの青年ブロントは、声を封じられて魔法を中断させられて、口をパクパク動かしているメイド少女に近づきながら言う。 「可愛い子ちゃんに、こんなものは似合わんぜ」 そういって、細身の体つきからは考えられないほどの力で、少女の手首をつかむと、ショートソードをもぎ取った。 「ブロント、その辺にしておけ」 背後で様子を見ていたゴルドンが、ブロントをたしなめる。 「ダチをコケにされて、黙ってられるかよ。 それに、ゴルドン。この手のやつは、わからせとかないと同じ事繰り返すぜ!!」 「我は、武威をもって恫喝する事を是としない」 「ちっ、わかったよ」 ゴルドンの真剣な表情に、ブロントはメイド少女の手首を離した。 「侍女殿、わが友が手荒なことをしてすまなかったな」 「じゃあな、かわいこちゃん。今度はその可愛いお口で、愛の言葉でも囁いてくれ」 メイド少女を置いて連れだって去ろうとする二人に、ようやく魔法の頸木から脱した彼女は。 「はっ……、はい。ゴルドン様……」 ブロントは、メイド少女の言葉につんのめった。 (二人とも、種族を越えた友情に結ばれているのね。 あの二人の間に私が入ったら……。 見た目の良いブロントに、いじわるにされるのも良いかもだけど、 無骨な顔に、獣の様な肉体のゴルドン様に、紳士的に優しくされるのも……) 偏見に凝り固まっているメイドさんは、実は妄想癖も強かった。