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王冠の重み
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「公爵はいかがしたのだ」 若き女王は、式典の時間になっても現れない公爵に業を煮やしていた。 「はっ、先ほど、訓練所の方にオーク……いえ、、アーゼリン様のご子息と向かわれるのをお見受けしましたが」 (叔父上、やはりアーゼリン様の方が大事なのね……) そのころ・・・・・・、 「親父殿、かたじけない。情けないところをお見せした……」 公爵は、オークの戦士ゴルドンと共に、医務室にいた。 「いやいや、僕は無駄に生きていて、剣ぐらいしか取り柄がないからね。」 「何を言われる。親父殿ほどの手練れは、オークの親父ぐらいしか思い浮かばぬ」 種族は違っても、男同士は殴り合えば分かり合える、というのは本当らしい。 「失敬失敬。遅れてしまった」 ひょうひょうと、広間に入ってくる公爵を見て、女王は眉を顰める。 「公爵、卿の立場を何と心得る?」 「いやあ、僕なんかいなくてもお城は回っていくでしょ」 遅刻したにも関わらず、反省の色も見せない。 (何を言われる。叔父上。この王冠は、本来あなたが被るはずのものだ) 急逝した前王には世継ぎがいなかった。 ただ、市井にメイドとの間に作った子供がいることがわかり、急遽探し出されたのが、今の女王だ。 しかし、前王には弟がいた。父母同じくする弟で先代の王子という事になる。 すでに成人に達し、公爵位を与えられ、その上騎士として王国一の剣の達人と言われていた。 まつりごとの能力は未知数だったが、市井で暮らしていた幼い王女よりは、剣の腕だけでも王にふさわしいと思う者達もいた。 そして、国を割っての争いが起こる寸前、公爵は突然、交際していたダークエルフの吟遊詩人が生んだ娘を認知したのだ。 公爵に他に子供はおらず、そのダークエルフ以外と子を作る意思もなかった。 この国は多くの種族が集ってできた国だが、王は人間だった。 ハーフエルフ、しかもダークエルフの血を引く家系を王位につけるわけにはいかない。 公爵家は王位を将来にわたって継ぐ意思を持たない、ハーフエルフの娘を認知したのはその意思表示だ。 (叔父上、この王冠は私には重たいのです) 女王の声なき呟きは、誰にも聞かれることがなかった。