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雷雨と魔法の稲光
「よく降るわね……」 窓から外を見ながら、シルビアがつぶやく。 魔術師であり准導師として魔法学園に籍があるシルビアの自室だ。 「なあ、ちょっといいか」 食事会が終わった後。 ブロントが切り出した。 「ひとつ、気になることがあっだな……」 もともと、ブロントやシルビアが襲撃を受けた件について話し合う予定だったのだ。 ゴルドンとダキニラは急用で同席していない。 稲妻まではしるこの豪雨、ずぶ濡れになっているかもしれない。 並外れた戦士であるオークと、神聖魔法を使えるシーフのダキニラという組み合わせならば、心配は不要だろうが。 「どうした、ブロント?」 明朗快活なブロントにしては、歯切れが悪い口調に、アーゼリンが不審げに問いかける。 「俺にコナかけてきた奴らなんだが」 「一体どうしたのよ?」 直も歯切れが悪いブロントに、シルビアもいぶかし気に声をかける。 「あんたら、あっちの連中にツレとかいるか」 あっちの連中、とは口を濁しているが、敵対勢力の事だ。 たぶん、中の悪い隣町とか、部族とかの範囲ではないだろう。 「なんだ?いきなり」 「えっ、なっ、いきなり何を言っているのよ!!」 おそらく、襲撃してきた相手はかなり規模が大きい。 王都で、大っぴらに襲撃をしでかす相手だ。 それなのに、言葉を濁す理由は……。 ちょうどその時、稲光が走り、シルビアの顔が青白く照らし出される。 「魔族だったのね」 「ああ、やつら、姉御の事、様付でよんでたぞ。シィルちゃん、あんたは呼び捨てだった」 ブロントは、自分の強力な、単体攻撃用の魔法をうけても平然としていた、女魔族を思い浮かべながら言う。 「わっ、わたしは魔族に知り合いはいないわよ!!」 賢者の学院は魔族に対して敏感だ。魔法そのものが、魔族の力に相通じるものがあるのでは、との事実に近い風評があるからだ。 そのため、魔族とつながりがあるなどと知られたら、放校処分になってもおかしくない。 「ものすげー、やばい奴だ。若い女に見えた。そんな奴が、姉御の事を様付で呼んで、シィルちゃんは呼び捨てだ。なんかあると思うわ」 「うむ……」 姉御、ことダークエルフのアーゼリンは、それを聞いてふと思いにふける。 「姉御の事は有名だ。様付で呼ぶやつもいるかもな。敵だってんなら、呼び捨てもするだろう。 でも、シィルちゃんはそこまでじゃないべ。呼び捨て身内やダチぐらいじゃねーのか」 「知り合いはいるが、友達というわけではない。だが……」 考え込んでいたアーゼリンが口を開く。 背後で稲光が走り、アーゼリンの顔が陰になる。 「そちらに転んでもおかしくない者には心」 「しっ!!」 そこまで言ったところで、シルビアが鋭い声でさえぎった。 シルビアは、それなりに素早い動きで窓に近づくと、短杖を取り出した。 『マナよ、稲妻となりてわが敵を討て!! 「ライトニング」!!』 素早く呪文を詠唱すると窓越しに放った。 はたして、魔法にとらえられた妖魔が稲妻に焼かれて地に落ちた。 「のぞき見とは趣味が悪いわね。乙女の部屋には危険がいっぱいよ」 迎撃の準備をしていたらしく自慢げに言うシルビアに。 「シィルちゃん、窓割れてんぞ……」 ブロントは、感心するわけでもなく、呆れて呟いた。