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魔界の旋律
「アーゼリン殿、やはりここにいらしたか」 豪華な音楽室に、若き女王陛下が入ってくる。 吟遊詩人で精霊使いであるアーゼリンは、音楽と自然の中を好む。 おそらくこちらだろうとあたりを付けたのだが、正解だったようだ。 「お邪魔をしている……」 唯我独尊天然無限とも思えるアーゼリンだが、別に無礼千万というわけではなく、一般社会の礼はわきまえているので、跪かないまでも、はるかに年下の女王に頭を下げる。 「少し見ていただきたいものがあるのだが」 そういって、女王は一枚の楽譜を取り出した。 「出張った火事場で見つけたものだ。王軍が先に抑えた」 先日、大規模な火災があり、消防士をかねる王軍を指揮して、女王自ら消火活動を行った。 水に濡れて汚れているようだが、内容を見るには支障がないようだ。 「拝見しよう……」 ピアノの前に座ったアーゼリンは、立ち上がると、両手でその楽譜を受け取る。 女王も、アーゼリンがさりげなく引き出した予備の椅子に腰を下ろす。 しばらく見分して、アーゼリンの顔色が変わった。 「これは!!、衝動(インパルス)の呪歌……」 呪歌とは、魔法の旋律を乗せられた音楽の事だ。 魔法的素養は必要なく、一定以上の音楽的素養がある者なら使用できる。 広範囲に響き渡り効果があり、使用にあたって音楽を演奏すること以上のコストは発生しない。 ある意味強力で、有効な魔法技術なのだが。 ただし、細かい制御は難しく、音楽を聴いてしまった者は、敵味方を問わず影響を受ける。 「衝動(インパルス)……、ですか?」 「ああ、私も実際に譜面を見るのは初めてだ」 衝動(インパルス)。 この呪歌の効果がかかった者は、衝動のままに行動する。 同時に、身体能力と精神に影響を受け、力と素早さを強化され、魔法に対する抵抗力が増す。 同時に、命にかかわりかねないぐらいに体力を消耗するが。 つまり、心身ともに我を忘れて暴れ回っている状態になる。 破壊行動、暴力事件、盗み、そして暴行。不用意に、もしく意図的に使用した場合は、大規模な暴動・動乱に発展してもおかしくない。 「まさに、国家を騒乱させるための、悪魔の歌ではないですか……」 アーゼリンの説明を聞いた女王は顔を青ざめて立ち上がった。