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オークとエルフと収穫祭
「おう、そこのオーク、ちょっと待ちな」 エルフの若者が、屈強なオークの戦士の前に立ちふさがった。 なにやら、曲がった刃がついた、竿状武器にみえる獲物を携えている。 エルフも、細みな体つきにしてはなかなか鍛えられているようだが、オークの戦士とは、体の太さも腕の太さも、それこそ倍は違う。 それでもエルフは物おじせずに、オークの凶相ともとれる、だが意外に整っている顔をにらみつける。 「我に、なにか用か・・・・・・・」 オークも、相手が体格に劣るとはいえ侮ったりはしていない。 だが、威圧するでもなく、恐れるでも無しに、静かに問い返す。 「おめー、いいガタイしてるじゃねーか。ちょっと面貸しな!!」 そんな様子を見ている二人の女性。 「たっ、大変!!いろいろ交渉しているこんな時に、喧嘩なんて!!お母様、止めないと!!」 ハーフエルフのシルビアが、あわてて杖をつかんで身構えるが。 「まあまて、シルビア。あの若者に殺気は感じない」 優れたシャーマンにして、レンジャーでもあるアーゼリンは、人の心や気配を読むことに長けている。 「でっ、でも・・・・・・・」 「そもそも、ゴルドンが並みの相手に後れをとるものか」 「・・・・・・そうですね。様子を見ましょう・・・・・・」 なおも言いつのろうとするシルビアも、母の言葉に引き下がる。 「ここらへんでいいべ」 エルフの若者は、オークの戦士ゴルドンを、麦畑の真ん中に誘った。 収穫を待たんばかりの麦が、黄金色に輝く穂を、重そうに風に揺らしている。 「ほな、おっぱじめるぞ!!」 エルフは、得物をもったまま、上半身の衣服を脱ぎ捨てると、もろ肌になった!! ・・・・・・ 「おめー、なかなかやるじゃねーか。オークなんて奴らは、ぶっ壊して奪うしか脳が無いって思ってたべ」 エルフの若者が、鎌を片手に汗をぬぐいながら言う。 「コツコツ、地道に物事を進めるのは、我の性に合っている。 剣や術、知識の修行にも通じることだ。 その積み重ねがあるから、いざことに及んだ時にすべてを出し切り戦うことができる」 収穫し終えた麦をまとめて抱えながら、オークの戦士にして賢者、内功術師(エンハンサー)であるゴルドンも言う。 「気に入ったべ。ほんじゃ、今夜はぱーっとやるか。さすがに全部出しきるのは無理だが、祭りだぞ!!」 エルフの若者は、屈託のない笑みを浮かべて、新しくできた異種族の友の肩を叩くのだった。 「エルフって、農耕民族だったんですね……」 「若い男同士は、われわれ女にはわからない形で、相通じるものがあるのだ」 その様子を見ながら、ダークエルフとハーフエルフの親子は、それぞれ少々ずれた感想を漏らした。