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黒天使は金色のハエ
「はあ、ここにきても倉庫整理かあ~。 なんか、体よくつかわれている気がするなあ~」 倉庫の中で、金髪をポニーテールにして、黒いワンピースに軍服を着た少女がぼやいている。 階級章を見ると、少尉らしい。 「なんだかんだ言って、一番下っ端だしなあ~。しょうがないか」 彼女ことブロント少尉は、大抵の国や歴史の中でも、少尉としては最年少といえるぐらいに若い。 軍隊は階級がすべてとは言うが、そんなのは建前、 軍隊で食った飯の数と、やっぱり娑婆で生きてきた経験も無視はできない。 おっかない軍曹に、慇懃無礼に何かをお願いされるなんか、日常茶飯事だ。 「くぅ~」 そこで、少尉のお腹がかわいらしくなった。 「そういえば昼ごはん食べてない。おなかすいたな~」 「あれ!!」 そこで、彼女は棚の奥から、何か重たいものが入った大きな段ボールを引っ張り出した。 机の上で開いてみると、缶詰だった。 「これ、もしかして、MCIレーション!?」 普段の彼女の活動拠点辺りで、半世紀以上前に10数年以上続く、長ったらしい戦争があった。 その時、陸軍の兵士向けのレーションとして多用されたのが、缶詰に詰められたMCIレーションだ。 保存がきく上に頑丈だが、いかんせん缶詰主体なので結構重い。 「この国にも支給されていたのね。こっちは何だろう?」 大ぶりの缶詰に入っているMCIレーションは、彼女も知っていたが、 それとは違う缶詰が置かれていたのだ。 膨れたり錆びたりしたMCIの巨大な缶詰よりは、新しいように見える。 「これ、もしかしてクジラ?そういえば、日本人はクジラ食べるんだったわね」 なにか、大きな魚の絵、よく見るとクジラだとわかる、絵が描かれたラベルが巻かれている。 「珍しい、おいしそうだわ。MCIは無理だろうけど、こっちはいけるかも」 「ぐうう~!!」 そこで、再度、少尉のお腹がものすごい自己主張をした。 「古いものは処分しておけって、言われたわよね!!」 少尉はよだれをすすり上げた。 翌日 「スカリー軍曹、ブロント少尉殿はどうされた?」 「病欠ですよ。なれない物でも食べたんですかね」 世話役の富士見2曹に答えるスカリー軍曹。 「銀バエが湧いたみたいですね。いえ、金バエですか」 軍曹たちの会話に、銀色の髪の伍長が吹き出した。 (クジラの缶詰なんて、今時ほとんどないわよ。こんな倉庫にあるのは禁漁になる前の、50年以上経ったやつよね) 手にした缶詰のラベルを見ながら、シルビア伍長は心の中でつぶやくのだった。