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夢の中でも黒天使
「ほら、そんなもんですか。少尉殿 あなたは戦場の隅っこを歩いていたんですか」 「言わせておけば!!」 金髪ポニーテールの少女と、小柄な黒髪ボブカットの2等軍曹が、格技場で組み手を行っている。 二人とも、いわゆる空手道着を着ているのだが、 2等軍曹はともかく、金髪ポニーテールの少女、ブロント少尉にはいまいち似合っていない。 細身とはいえ、背は高いほうのブロント少尉と、日本女性にしても小柄で、 兵士としてはの下限ぎりぎりの身長の富士見2等軍曹。 体格差にも拘わらず、勝負は2等軍曹が明らかに優勢だ。 「甘い!!」 少尉も戦闘訓練は受けているし、素養もあるのだが、いかんせん相手が悪い。 脇腹を狙って放たれた鋭い回し蹴りが放たれる。 「ぐっ!!」 少尉の口からくぐもった呻きが溢れる。 「ちっくしょう!!」 痛みに耐えながら間合いをとる。 「あら、かわいい顔して口が悪いですね」 表情を変えずに挑発を続ける2等軍曹。 (わずかに外されている。たいしてダメージが入っていない) 2等軍曹は冷徹な顔の下で、冷や汗を隠せなかった。 そもそも、もう一時間近く二人は組み手を続けている。 「そのおすまし顔、おもろ顔に変えてやるわ!!」 荒い息をつきながら、はだけた道着を直さずに挑発を返す少尉。 汗だくの道着の上着を脱いで、 (大きいわね) 一瞬2曹の気が反れたのを少尉は見逃さなかった。 道着を相手に投げつけて、その陰に隠れるように飛び掛かって、必殺の一撃を…… 「むにゃ、やったあ~!!むにゃ……」 夢の中で勝どきを上げているらしい金髪ポニーテールの少女。 「す~」 しばらくして、寝言が寝息に変わる。 ぐっすり寝ている 昼間の、2曹との格闘訓練で、疲れ果てていたらしい ひよこ柄のパジャマに身を包んで幸せそうに夢の中だ 「恐ろしい娘だわ」 富士見2等軍曹は、左肩の具合を確かめる。 辛うじて脱臼はしていなかったようだが……、 動かすとかなりの痛みが走る。 あの時、ブロント少尉の半ば卑怯な不意打ちを、2曹は読んでいたのだが、 外されるととっさに判断した少尉は、即座に攻撃を切り替えた。 2曹の反撃より、少尉の修正された攻撃のほうが早かったのだ。 そもそも、2曹の攻撃を不完全ながらも1時間近く何発となく受け続けているのだ 恐るべき打たれ強さと体力だ。 「あの年で、少尉になっているのもお飾りではないということかしら。 戦場の花 黒天使 本物ね 中隊長が目をかけるのも無理はないわ」 2曹の顔は、少々悲しげだった。