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【魔法使い】バニートラップの編入生(後編)
教室に入ると、早速全員の視線がヴァニラに突き刺さる。それも当然、胸に。 「ヒマリおはよー。ねえその子誰?」 「もしかして編入生?」 「まあ、そんなところ。あと服の事は気にしないであげて。育ちの問題で、ちゃんとした服を着るとストレスになるんだって」 ヴァニラはというと、羊皮紙に下手な字で『わたしは ばにら・いんこーだ です』と書いて皆に見せていた。私は『ばにら』の所を『ヴァニラ』に訂正してあげる。インコーダという苗字から、私とヴァニラの関係性を推察してもらえたようで、ヴァニラはクラスに難なく迎え入れられた。 しかしどんなクラスにもお調子者というのはいるもので。私の元カレの一人、チャーリーが私に話しかけてきた。 「なあヒマリ、ヴァニラちゃんって彼氏いるの?」 「いないけど。何、もう狙ってるの?本当男って胸好きだよね」 チャーリーも例に漏れず、私の胸を揉もうとして私に振られた一人だ。 「何、僻んでるの?いいじゃん、ヒマリだってこんな立派なもの持ってるんだしさ」 チャーリーが不意打ち気味に、両手で私の胸を掴んだ。 「 」 ここでいったん、私の記憶は途切れた。 次に気が付いた時、私はミリシラ先生の研究室で拘束されていた。 「お、正気に戻ったかヒマリ。自分が何したか記憶はあるか?」 そう言われるけど、全然記憶がない。私一体何したんだろう。 「これはお主のクラスメイトから聞き取ったんじゃがな。お主がチャーリーに両胸を鷲掴みにされた次の瞬間、お主は極大爆裂呪文をチャーリーに叩き込んで教室の反対の壁まで吹っ飛ばしたそうじゃ。で、その後痛みに悶えるチャーリーに歩み寄ってその魂に幻覚魔法を刻み込んだ。それも、凄まじい魔力をもってして」 幻覚魔法を刻み込む。これは私の得意技の一つで、自分のパッド付ブラとかにもやっている事だ。刻んでいるのは『巨乳に見える』幻覚。こうすると、私の胸を見た人は実際見たものに関わらず『巨乳だ』と錯覚するようになる。 「・・・私、チャーリーに何を刻んだんですか?」 「ワシが解析した限りじゃと、チャーリーを見た者は『チビ』『デブ』『ハゲ』『不細工』『体臭と口臭がきつい』『髪の毛以外全身毛深い』『性欲の権化』という印象を受けるように幻覚を刻んでおったぞ。三重苦どころか七重苦じゃな。しかも魂に刻んだから、簡単には解除できんぞ。今チャーリーは大聖堂に行っておるが、ラファエルが休みを取っておるから他の聖職者にあれが解除できるかどうか怪しいもんじゃな」 およそ『もてない男』の要素を思いつく限り刻んだ感じだな。流石私、胸の事になると容赦ねぇ。 「最早呪いと言ってもいいレベルの幻覚を刻まれた上に、お主の胸を揉んだ場面は多くのクラスメイトが見ておったからのぅ。女子全員がチャーリーを遠巻きに囲んで汚物を見るような目で睨みつけ、あらん限りの罵声を浴びせておった。男子も男子で、チャーリーの味方をしようもんなら自分も女子から総スカン食らうのが目に見えておるし、何よりお主の手によってチャーリーのあまりにひどい有様と同じ状況にされる可能性もあるから恐ろしくて関われないようじゃった」 ・・・うん、目に浮かぶな。どんな男子でもそんな目に遭いたくないもんね。 「で、ワシは事態の解決のために急遽呼ばれてきてな。いったんお主を拘束してこの部屋に連れてきたって訳じゃよ。ま、女生徒たちが口々に『ヒマリは悪くない』『チャーリーのドスケベク〇野郎を退学にして下さい』なんて喚いておったし、お主の気持ちも分かるから厳罰に処す事はせん。チャーリーは・・・もし刻まれた幻覚が解除できたとしても、もうクラスの女子がトラウマになっておるかも知れんのぅ。今後次第じゃが、クラスには戻れないかも知れん」 「・・・いくら完全にキレたとはいえ、流石にやり過ぎましたね。すみませんミリシラ先生。あとでチャーリーにも謝りに行ってきます」 「いや、やめといてやれ。お主が顔を見せたらチャーリーの奴、恐怖で心臓止まるかも知れん」 ううん、それもそうか。ここは先生の言う通りにしておこう。 「何だか、『エロい服の編入生』が薄れるレベルの大事件になっちゃいましたね」 「まあそうじゃな。とりあえず、教室の生徒達には『ヴァニラが非常識な行動をしたらちゃんと言い聞かせてやめさせてくれ』と頼んでおいたし、チャーリーの一件もあるから破廉恥な展開にはなっておらんと思うが、一応早めに教室に戻ってくれ。罰則は後で連絡するわい」 ミリシラ先生は、私の拘束を解除してくれた。私は先生に頭を下げて教室に向かう。教室では、ヴァニラはちゃんと大人しく授業を受けていた。そしてクラスの女子たちは、皆私を温かく迎え入れてくれた。良かった良かった、とりあえずは一安心。パッドの秘密もバレてないみたいだし。 ・・・余談だが、私はしばらくの間男子たちに恐れられまくった。これじゃあ次の彼氏が出来るのは当分先になるかなぁ。