【魔法使い】バニートラップの編入生（前編）

「失礼します。ミリシラ先生、いらっしゃいますか？」 学園の始業前。私がミリシラ先生の研究室を覗くと、そこには先客がいた。美しい白い髪をなびかせた女の子。魔女帽子とミニスカートはいいんだけど、なぜかおっぱいがほぼ丸出し！痴女！？ 「おー、ヒマリか・・・用事は何じゃい」 私が驚いていると、ミリシラ先生が現れた。疲れた顔をしている。また何か研究してたのかな。 「いやいや、ミリシラ先生が私を呼び出したんですよ？用事が何なのか聞きたいのはこっちです」 「あー？・・・あー、そうじゃったな。いや何、こいつ今日からお主のクラスメイトになるから頼むぞって事じゃよ」 ミリシラ先生が『こいつ』と呼んだのは、例のおっぱい露出女。誰なんだろう。 「こちらはどなたですか？」 「あんまり大きな声で言えんが、魔物なんじゃよ。聞いた事あるじゃろ、バニートラップって魔物」 バニートラップ。もちろん知っている。異性に身体をこすりつけて人参に変えてしまう魔物で、危険度はとても高い。 「はー！？いやいやいや、そんなのクラスに連れて行ける訳ないですよね！男子を全員殺す気ですか！？」 「バカモン、流石に対策しておるわい。あー、面倒じゃが順を追って話すとするか」 ミリシラ先生は椅子に座ると、これまでの経緯を話してくれた。 まずこのバニートラップは、辺境の村の外れで娼婦の真似事のような事をして男を殺していた変異種であり、ミリシラ先生が退治して捕獲した個体であるという事。文字を扱える事から、知能の高い変異種だと思われるので研究材料として観察する事に決めた事。異性を人参に変える呪いが極めて危険な為、ラファエル様が三日三晩ぶっ通しで解呪の儀式を行って呪いを使えなくさせた事。 「一応サイトと一緒のベッドで一晩過ごさせて問題ない事は確認したわい。傑作じゃったぞ。サイトはラファエルのせいで性欲が無くなっておるからこいつに欲情せんし、こいつはこいつでいくら身体をこすりつけても相手が人参にならないので、しまいには全裸になって半泣きでサイトにすがりついておったわい。何というか、女を捨てた男と、何とか身体で振り向かせようとする女にしか見えんくなっておったなぁ。いやー面白かった」 ミリシラ先生趣味悪いなぁ・・・。まあ、そういう事ならこのバニートラップは人的被害をこれ以上は出せない、のかな？少なくとも呪いの力では。 「で、こいつを近くで観察するには学園に置いておくのがよいと思ってな。学長の許可は取って、特別に授業を受けさせる事になっておる。もちろんバニートラップは喋れんから、コミュニケーションは筆談とジェスチャーになるんじゃが」 「なるほど、そこまでは分かりました。で、この子の正体は秘密にしてウサギ系獣人扱いにしておけばいいんですね？」 「うむ。その胸のブローチが身分証になっておるから、見る奴が見れば分かるじゃろ。後は名前じゃが、白いバニートラップなのでバニラ・・・とも思ったが、ちょいとひねって『ヴァニラ』で行こうかと思う」 ヴァニラ、とミリシラ先生が口に出したら、バニートラップの耳がひょこひょこ動いた。どうやら自分の名前と認識してるみたい。 「苗字はどうするんです？洗礼名じゃないんだから、名前だけじゃ怪しまれますよ」 「名前がヴァニラじゃから、苗字はアイスとかでいいじゃろ」 ヴァニラ・アイス！？ 「いやいやいやいや駄目です駄目です。ヴァニラ・アイスはまずいですよ先生」 「えー？じゃあお主の親戚って事にしといてくれんか。ヴァニラ・インコーダで」 マジか・・・でもまあその方がフォローしやすいかぁ。私はヴァニラの顔を覗き込んで、教え込むように言い聞かせる。 「いい？あなたの名前は『ヴァニラ・インコーダ』。『ヴァニラ・インコーダ』だよ？分かった？」 するとヴァニラは理解したのか、笑顔を浮かべて私にぎゅっと抱き着いてきた。あー、すごい。もっちもち。これは男をダメにするわ。分かってても拒めなくて人参になるわ。 「よしヒマリ、それじゃあ頼むぞ。ワシは最初の授業お主たちのクラスじゃないから一緒にいられんが、後で様子見に行くからの」 「はい。それはいいんですが、この子の服ってどうにかならないんですか」 さすがにこんなにおっぱい丸出しの子を教室に連れて行ったら、男子の目がどうなるかなんて想像に難くない。しかしミリシラ先生はまた疲れ切った顔に戻った。 「それがなぁ、ちゃんとした服を着せようとすると暴れるやらちぎってでも脱ごうとするやらでもう大変だったんじゃ。どうやら胸の露出を減らすのはバニートラップの種としての本能に逆らうレベルの事らしいな。ワシらに置き換えると、アソコを自分の手でおっぴろげながら往来を歩けと言われてるようなもんなのかもしれん」 ああ・・・それは全力で抵抗するだろうなぁ。まあ、一応大事なところは隠れてるしあんまり男子がエロい目で見るようなら女子一同でブーイングすればいいか。 「分かりました。じゃあ、後は私が引き受けます」 私はヴァニラを引きはがすと、手を引いて教室に連れて行った。