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桃宮ちゃんたちのクリスマス会
『凪おじさん、私たち今夜クリスマス会やるんだぁ。おじさんも来ない?』 そんなお誘いを受けて、OKの返事をした私は桃宮ちゃんの家に向かっていました。手にはクリスマスケーキの箱を持って。もしかしたら余るかもしれないけど、桃宮ちゃんなら食べるでしょう。さて、確か不思議な指定があったな。OKの返事をした後に来た方のメールをスマホで読み返してみます。 『分かった、準備しておくね。ピンポンしても出れないから、代わりに時間になったら玄関前に私の友達が出迎えに出るから、その子と一緒に来てね。オレンジ色のはねっ毛の髪に赤目で、ローソク持ってる子だよ』 何でインターフォン鳴らしても出れないんだろう?と思いましたが、とりあえず桃宮ちゃんの家に早めに行く事にはしました。人が外で待ってるなら寒い思いをしてしまうでしょうから。しかし私が着いた時には既に、一人の小柄な女の子が立っていました。 「あ、やっと来た。アンタが早渚ってカメラマン?」 「う、うん。ごめん、待たせちゃったかな」 「別に。私もさっき出たばっかだし。さっさと中入って」 つんけんとした態度の子です。でも女子中学生が30代男性相手にとる距離感としては普通でしょう。桃宮ちゃんみたいに懐っこい方が希少なんだから。一緒に廊下を歩きながら、とりあえず名乗っておきます。 「早渚凪です。よろしく」 「・・・橙臣恋織(とうじん れお)」 橙臣ちゃんか・・・珍しい苗字だな。そんな事を思っていた私でしたが、ダイニングに入った途端に衝撃の光景が目に飛び込んできました。 「あ、凪おじさんいらっしゃーい」 何と、ビキニを着た桃宮ちゃんが床に仰向けで寝ており、その周りには手にボウルを持った男子女子たちが。ボウルの中身は生クリームのように見えます。 「言っとくけど私は止めたから。弥美がやりたいって聞かなかったからこうなった」 橙臣ちゃんの呟きが聞こえました。一応、勘違いかも知れないから聞いておこう。 「桃宮ちゃん、これ何」 「今からね、私の体にクリームを盛り付けてケーキにしてもらうの。ローソクやイチゴも用意してあるよー」 勘違いじゃなかった。大人としてこれは止めねばならないな。私は厳しい声色を作りました。 「桃宮ちゃん、それ可愛いと思ってやってるのかも知れないけどダメ。食べ物をそんな風に不衛生な扱いするのは許さないよ。普通の服に着替えてきなさい」 「えー!?」 「言う事聞けないなら、私の持ってきたケーキはお預け。惜しいね、これお隣の金剛院家のメイドさんが作ったケーキでさ、その辺のお店のよりずっとおいしいのに」 「うう~!」 桃宮ちゃんは恨めし気に私とケーキの箱を交互に見ていましたが、やがて折れたのか部屋を出ていきました。さて、次だな。 「女子はここに残ってていいよ。男子諸君、ちょっとこっち来なさい」 私に楽しみを奪われた事で不満を隠そうともしてなかった男子数名を引き連れ、私は隣のリビングへ移動しました。私に説教されると思っている彼らは、敵意の視線を向けてきます。しかし、今後のためにもちゃんと言い聞かせておかないと。 「私に楽しみを奪われてさぞ怒ってると思うけど、よく考えなさい。桃宮ちゃんにクリーム盛ったところで、楽しいのはそこまででしょう。そのクリームを舐め取らせてもらえるわけでもないし、好きに体を触れるわけでもない。せいぜいスプーンでつっつくくらいが限界だよね?」 男子たちの間に『ん?』という空気が流れます。私の話の方向が妙な事に気付いたようです。 「正直に答えなさい。桃宮ちゃんのおっぱいに興味ある男子は挙手」 彼らは顔を見合わせていましたが、やがて全員が軽く手を挙げます。私はそれを見て頷くと、話を続けます。 「だったらもっといい案がある。桃宮ちゃんの胸で型をとらせてもらって、それを使ってプリンや牛乳寒天を作ればいい。俗にいうおっぱいプリンだよ。これなら型があれば何個でも同じものを作れるから一人一人が独り占めできる。想像して見なさい、あのワールドクラスの巨乳そのままの形のスイーツを好きにしていいんだ。スプーンでつついて揺れるのを目で楽しむもよし、舌を這わせて味わうのもよし、何なら豪快にむしゃぶりついても誰も文句は言わないんだぞ」 男子たちの数名がごくり、と喉を鳴らしたのを確認し、私は自分の説得の成功を確信しました。 「材料の割合を変えれば弾力だって好みにできるしね。さらなるアレンジとしては、私のお勧めは食用色素を使う事だ。最初にピンクにした材料を少量だけ入れて冷やし固め、後で肌色にした材料を流し込めば・・・もう、外見がどうなるかは言わなくても分かるね?」 男子たちは天を仰ぎ、両こぶしを力強く握りしめて無言のガッツポーズを繰り返しました。 「早渚さん、あなたこそ真の変態だ。俺たちは考えが浅かったです」 「ふふ、まだ実現してない話だろう。桃宮ちゃんから型をとらせてもらわないと。何、心配ない。女体盛りをOKするような子だ、君たちの口車次第でどうとでもできるさ」 私と彼らは力強い友情の握手を交わし、彼らと共にダイニングに戻ります。と、隣にそっと橙臣ちゃんが座ってこっちを睨みました。 「ド変態オヤジ。さっきの話、聞いてたから」 「えっ」 まずい、通報かな。と思いましたが、橙臣ちゃんは少し目を逸らすと、 「まあ、アンタのおかげで弥美が直接エロい事されなかったのは確かだから・・・ありがと」 と呟きます。そうか、この子は桃宮ちゃんの意見を尊重したかったけど、男子が下心丸出しで桃宮ちゃんにクリーム塗るのは嫌だったんだな。図らずも私がその思いを汲んだ形になったのか。 「橙臣ちゃんの役に立てたなら良かった」 「ふん」 そうこうする内に桃宮ちゃんが着替えて戻ってきたので、私は桜一文字さん特製ケーキを供出。皆でおいしくケーキを食べて解散の運びとなりました。私が玄関を出ると、橙臣ちゃんがローソクを持って追いかけてきました。 「早渚、これ余ったローソクだけどいる?夜道暗いし、ちょっと冷えるでしょ」 「・・・うん、もらおうかな」 多分歩き出したら風ですぐ消えてしまうのでしょうが、その気遣いをもらうつもりでローソクを受け取って私は桃宮ちゃんの家を後にしました。橙臣ちゃん、態度は固いけどいい子みたいだし、また会えたらその時はもっと仲良くなりたいな。