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主役は遅れてやってくる
「リリスさん、メインのバードがまだ来てないらしい」 「んだよ。そりゃあ。本当にプロか?」 バックバンドの準備をしているリリスに、音楽監督が声をかける。 「リリスさん、ソロでちょっとつないでくれないか?」 「えっ、あたいがかい?」 いきなりの御指名にリリスは驚愕する。 「……、目立つのは好きじゃないんだがな」 スポットライトで照らされた闇の中、リリスのフルートが鳴り響く。 「ほう、中々だな。まだ荒削りだが。見目もなかなかだ」 特別席で、ステージを見下ろしていた貴族がつぶやいて、隣にたたずむ執事風の、ただし、いささか下品に見える男をちらりと見る。 「おい」 「だっ、だんな、あの娘はだめでさあ~」 意味を理解したであろう執事は顔色を変えて首を振る。 「なに、あの娘、ソロでは初見だ。まだ誰も唾をつけておるまい?」 もうすでにパトロンがついているのかと問う貴族に。 「無理ですぜ!!」 執事は泣きそうな顔で拒絶する。 「なんだと。何のためにお前を拾って飼っていると思っている?」 「だっ、だからこそですぜ。恩があるだんなに、死なれたら困りますぜ。あの娘にコナかけて、生きてる奴はいないんでさあ!!」 裏社会に関わりがあったらしい執事は、主に対する忠誠心もあるらしい。必死の形相で主人を止める。 「ううっ・・・・・・」 それなりに執事を重用しているらしい貴族も、その物言いに息をのむ。 とそこに。 「ふむ。それならば、私が預かろうか・・・・・・」 いきなり隣から掛けられた声に、執事もろともぎょっとして振り返る。 「あっ、あんたは・・・・・・」 「なっ、なぜ、どうしてここに?」 上流階級や、事情通で、褐色の美女の名前を知らない者はいない。 この場においてはそれ以前の問題だが。 「いや、若い者の演奏を聴くのは楽しみでな」 ダークエルフの美女は、ステージ上のリリスをうっとりと見つめながら耳を動かす。 「彼女は中々素晴らしいな……」 貴族も執事も返事ができない。 なぜなら・・・・・・・。 「アーッ!!、こんなところにいた!! 一体何やっているんですか。 おかあ、アーゼリンさん とっくに出番始まっていますよ」 貴族と執事は、狐耳の警備員に引っ立てられていく、このコンサートのメインを呆然と見つめ続けた。