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ヒール(悪役)対決
「プロレスだ~?」 魔法学園の居室で、オークとエルフ二人の若者が話している。 「うむ、われの体術教官としての噂をきいたらしくてな。模範試合を見せてくれとの事だ」 屈強なオークの戦士であるゴルドンが答える。 「よせよせ。プロレスなんてーのは見世物だ。筋書きが全部決まっているっていうぜ。八百長はお前の主義には合わんだろ」 こちらは細身な、だけど引き締まりながらも良く鍛えられた体のエルフの若者、ブロントだ。 どうも彼は、体術をショーとすることに否定的なようだ。 「市内の子どもたちに体育のおもしろさ、体を鍛えることの意義を教えてほしいといわれてはな」 ゴルドンは、魔法学院の教官として子供たちと触れ合うことが多いためか、子供たちに自分の体力と技術を見せることに肯定的だ。 「それに、我が見たところ、筋書きは決まっていても、レスラーたちは本気で技をかけ本気で受けて耐えているぞ。侮れん」 「だがよう~。言っちゃ悪いが、まだ王都でのオークの評判は悪いぞ。悪役扱いで、ボコられる必要もねーだろ」 ブロントは本気で友を案じているようだ。 「案ずるな。無様な真似をさらすつもりはない」 と、そんな様子をうかがう人影が一人。 褐色のとがった耳がぴくぴく動いている。 「ふむ……、プロレスか……」 当日。 『青コーナー!!賢明なる戦鬼!!ゴルドン~!!』 「うお~!!」 「ひゅ~!!」 「いいぞ~!! ゴルドン!!」 「がんばれ!! せんせ~」 リング上で雄たけびと共にポーズを取る様子は、どう見てもヒール(悪役)の容姿と役割なのだが、なぜか若者やこどもたちに大人気だ。 『続いて、赤コーナー、えっ……』 レフェリーがベビーフェイス(善玉)の紹介をしようとして固まった。 「待たせたな。ゴルドン。存分に(殺)試合おう」 「はっ、母じゃ……」 リングに舞い降りたのは、褐色の肌に銀色の髪、鋭い目つきと尖った耳を持った美女だった。 『かっ、褐色の魔聖母……、アーゼリン?さま、さっ、さん』 さしものゴルドンも唖然としたが、レフェリーはプロ意識からか何とかイベントを進めようと、微妙な紹介をする。 煽情的なコスチューム纏ったその姿は、オークのゴルドンよりよほどヒールっぽい。 二人とも悪役!? 場内が騒然となりながらも、何やら期待に満ちた雰囲気になったところで。 「あっ、あのポンコツダークエルフ!!」 なぜか兄の雄姿を見に来たのだかなにか、リングサイドにいたハーフエルフが。 『スリープクラウド!!』 リングに乱入するなり魔法を放った。 「あーっと、勝利したのは乱入した、可憐なる半妖魔!!シルビアだ~!!まさに最強最恐最狂の悪役だ~!!」 ゴングの音が鳴り響く中、シルビアはオークとダークエルフが眠りこけるリング上で、魔法を放った姿勢のまま固まっていた。