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西方世界の東洋竜
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冒険者風の若い二人の女性が、王都を見下ろす丘を登っていく。 「姉御、その竜の御姫様っていうのは、当てになるのかい?」 狐の獣人、ダキニラは、隣を歩いている、ダークエルフの美女、アーゼリンに話しかける。 「ああ。私の古い友人でな。彼女の一族は、私のおばあ様が生まれたころに東洋から流れ着いたらしい。 竜族は人間どころかエルフよりもはるかに長寿でな。それほど代を重ねているわけではないが」 「姉御より、長生く生きているて、どれだけよ……」 「ダキニラよ。母に対して、ずいぶんとそっけないな?」 アーゼリンは実はダキニラの母親だ。長寿なダークエルフだ。 様々な種族と分け隔てなく付き合う事を信条としているアーゼリンには、種族が異なる複数の子供がいる。 もっとも、子供が独り立ちするまではその種族と子供の元にとどまるので、誰彼構わず相手をする、というわけではない。 ダキニラは、アーゼリンと狐の獣人族の若長との間にうまれた子供だった。 「もしかして、虎男に襲われて怖かった時に、傍にいなかったから拗ねているのか・・・・・・」 「べっつにぃ!!そんなんじゃないって!!」 ダキニラは、この天然はダークエルフの母親が少し苦手だった。嫌いと言わけでないのだが。 アーゼリンはそんなダキニラの心中を知ってか知らずか、苦笑しながら話を続ける。 「かれら東方の竜は、その戦闘力ではなく、自然と一体化した能力で信仰を受けていてな。 予知の能力があるらしいのだ。 知識も長く生きている分私より多い。 虎男といい、この地に馴染みが薄い物事は、彼らの方がよく知っているかもしれない」 「へえ?」 「もっとも、人族とそこまでかけ離れた存在でもないぞ。人間とよく似ている部分もある。名前なんかもな」 「うん?」 二人は多少ぎごちなく談笑しながら坂道を登っていく。 やがて木で作られた神殿、東洋で神社とを呼ばれるらしい、建物にたどり着いた。 「紹介しよう。私の古い友人、タキザワ殿だ。リュウコ、私の末の娘のダキニラだ」 アーゼリンの後ろに立つ、いかつい顔の細長い胴体の竜は、紹介に応じて姿がぼやけて揺らぎ、変わっていく。 「アーゼリン、お久しぶりです。始めまして。ダキニラさん。滝沢 竜子です。お二人とも、新年、おめでとうございます」 東方の竜は、赤と白を基調としたキモノに身を包んだ、黒髪の美しい少女にその姿を変えて、東洋風の名前を名乗った。