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異世界自動販売機
「どうも居心地が悪いわね」 シルビアは、様々な種族が、狂ったように歌い踊りまわっている様子を見ていた。 ライブハウス、騒音とも取れる音楽が鳴り響く場所は、シルビアには今まで馴染みががない場所だった。 連れは聞き込みの最中だ。 「喉乾いたな」 シルビアは、ダンスホールの隅にある、飲み物が並んでいる棚に手を伸ばす。 「あれ、お店の人は?」 飲み物を取り出して、会計をしようとしたら、近くに店員がいない。 周りを見渡して売り子を探して一歩踏み出した瞬間。 棚が魔法光を包まれ、魔法陣が構成される。 「なっ!!」 魔法陣は、棚だけではなく、シルビアも包むように広がっている 拘束系の魔法だった。 同時に警告音が鳴り響く。 ただし、その魔法強度は極めて弱い。 「こんなもの!!」 駆け出しの冒険者でも十分に抵抗できるぐらいだった。 だが、しかし……。 「お~う?なんだ~」 「ねえちゃん、こんなとこで万引きか?」 だが、警報音と魔法光は目立つ。 注目を浴びて人が集まり始める。 「金ねーのか?へへへ、なんなら俺が買ってやろーか?」 中には下品でガラの悪い奴もいる。 「なっ、なによ!!あんたたちt!!」 シルビアが服の下に隠したワンド(短杖)を取り出そうとしたところ。 「おう、わるいな。こいつ俺の妹なんだ」 さっと割って入る人影がある。 「ちょいと、こいつ、世間知らずなんだ。やり方知らねーんだ。許してくれ」 レザーファッションに身を包んだ若いエルフが、シルビアをかばいながら言う。 「ちっ、おめーの連れかよ。くだらんことは要らねーからよ、まともなことは教えとけ!!」 頭目が舌打ちすると、男たちは散っていった。 「シィルちゃん、これ、先に金入れとかねーと、警報鳴るぞ」 「助かったわ。ありがと……、でも、なんで私があなたの妹になるのよ……」 初めて、自動販売所の買い方を知ったシルビアは、少し不満げに礼を言った。