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人形使い
「ち、やっぱり、ひもがついてやがったか」 ライブハウスを出てしばらくしたところでブロントが言う。 「なっ、なに、どうしたの」 レンジャーの心得もあるブロントは、殺気には敏感だ。 ブロントの様子にただならぬ様子を感じてシルビアも身構える。 この辺りは治安が悪いから武装することは一般的だ。 「切り抜けるしかねえべ」 ブロントが担いでいた楽器ケースから、剣を取り出しながら言う。 シルビアも服の下に隠していた短杖を取り出す。 「やべえ、挟み撃ちかよ」 路地の前後から、武装した暴漢たちが現れる。 それほど技量は高くないことはわかるが、いかんせん数が多い 何よりも。 「女のほうを先に狙え!!魔法使いだ!!」 魔法使い(ソーサラー)は、魔動機革命がなった後もなお強力な存在だ。 そのため、隙があるならば真っ先に狙われる。 「シィルちゃん。剣は?」 「使えないわ」 シルビアは白兵戦の修練を積んでいなかったから、剣で襲われるとつらい。 襲撃者がブロントとは反対側からシルビアに襲い掛かる。 ブロントは剣もかなり使うが、人を庇いながら戦えるほどではない。 「ちっ、畜生!!」 ブロントは一気に敵を倒すべく、今までためらっていた、殺傷能力の高い攻撃魔法の詠唱を始める。 街中で、攻撃魔法を使って人を傷つけることはご法度だ。 正当防衛が成立するかどうか微妙なところだ。 本人だけではなく、部族まで類が及ぶこともある。 「心配ないわ!!」 『クリエイト サーバント』 シルビアが魔法をを詠唱すると、シルビアの前に、不細工な人型が浮かび上がる。 シルビアに襲い掛かろうとしていた暴漢は、突然目の前に現れた人形?に驚き動きが止まる。 「なっ、なんだ!!これは」 もう一体、色違いの、同じく不細工な人形が、暴漢たちの後ろに湧き上がる。 そこまで強力な魔法ではないが、いろいろと便利に使える簡易なゴーレムを作り出す魔法だ。 簡易ゴーレムといっても、兵士一人を相手にできるぐらいの強度と素早さはある。 そのため、魔法使いの即席の護衛として重宝する。 もっとも、学園にこもって研究ばかりをしている学者魔術師が即応的に有効に使用できるかは疑問だが。 『スリープクラウド』 動きが止まった男たちに、シルビアが放った範囲魔法が飛んだ。 駆け出しの魔法使いでも使える、だが極めて有効な魔法だ。 相手を傷つけることなく、複数同時に無力化できる。 シルビアは、的確に魔法を使いこなす、冒険者として経験と能力があった。 「は~。焦ったぜ。やっぱり、シィルちゃん、すげー魔法使いだな」 一撃で敵を殺しかねない攻撃魔法を中断したブロントが、ため息をつきながら言う。 「すげー便利な魔法だな。不細工な面しているけど」 「やかましい!!」 「おわっ!!」 シルビア抱っこしていたもう一つの人形、こっちはシルビアに似てかわいらしい、が飛び降りると、短い手足を振り回してブロントをたたいた。