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波打ち際でくつろいで
唐突に瑞葵ちゃんから電話が入りました。開口一番から瑞葵ちゃんのご機嫌が斜めの様子です。 「凪さん、最近全然私に構ってくれないから私から電話しちゃいましたよ。何かお仕事がお忙しいんですか?」 「あー、いやそういう訳じゃないんだよ。ちょっと色々あったのは事実だけど」 瑞葵ちゃんと最後に会ったのは11月の終わり頃だから、もう三週間くらい経ってるのか。確かに期間が開いてしまいました。 「色々と言うと、玄葉さんの裸を見ちゃったりとか、公園で私くらいの歳の女の子と一緒に雨宿りしたりとか、お隣のお屋敷にちょいちょいお招きされたりとかですか?」 「待って待って待って。だから何で分かるの。瑞葵ちゃんの女の勘、鋭すぎない?」 「むー、やっぱり全部本当なんですねー」 本当に発信機とかついてないんだろうな・・・いや、待て?もしかして江楠さんからの情報という事もありえるか? 「・・・凪さん、しばらく会わない内に私の顔を忘れちゃったりしてませんよね?」 「それは無いよ。瑞葵ちゃんみたいな子忘れる方が難しいよ」 「本当ですかー?一応私の水着姿の写真送りますね」 「何で水着姿なの!?いや、可愛いだろうからいいんだけど、季節的に撮るのつらくなかった?」 今はもう海辺だって冬を強く感じる気候なのに、そんなところで水着になるのはかなり危険な行為ではないでしょうか。 「だって凪さん、お隣のお屋敷でVRでビーチ体験したそうじゃないですか。しかも、女の人のお尻まで触ったって聞きましたよ」 「ごめんなさい、わざとじゃないけど触りました」 「なので私も対抗してビーチで水着を着た写真にしたんですよ。安心してください、屋内で水着を着て自撮りして、背景に海を合成しただけですから」 「あー、そうなんだ。分かった、見てみるね」 PCを立ち上げて、メールソフトを開くと確かに瑞葵ちゃんから添付ファイル付きのメールが来ていました。早速開いてみると、夏の波打ち際でハンモックに寝そべる瑞葵ちゃんの写真でした。・・・うん、実に夏っぽくて季節外れだけど、笑顔の魅力的な良い写真です。 「すごいね、合成だなんて一見分からないよ。これ、実際にはハンモックに寝て撮ったの?」 「はい、そうですよ。お部屋にハンモック張って、そこに乗って撮りましたー」 「可愛く撮れてるね、出来る事なら私も撮りたかったなぁ」 と、そこまで言って気付きました。これ、もしかして瑞葵ちゃん水着の上つけてない・・・!? 「ちょ、ちょっと瑞葵ちゃん!?」 「あ、気付いちゃいました?はい、トップレスですよ。でも構図的に見えてないからセーフですよね?」 「いやいやいやかなりまずいよ!?」 「えー、弥美ちゃんだって胸丸出しの写真を凪さんに送ったそうじゃないですか」 「いやあれはちゃんと写真加工で大事なところ隠れてたから・・・っていうかそんな事まで知ってるの!?本当に情報源は誰なのさ!」 「ふふ、教えませーん」 全く、なんて子だ。トップレスで寝そべっていいのはレジャーシートまででしょう。ハンモックは駄目だ、下から見たら大変な事になってるはずだし・・・いや、待った!さっき私『撮りたかった』とか言ってしまった! 「瑞葵ちゃん、まさかとは思うけど、これローアングルの構図の奴とか無いよね?」 「・・・凪さんのえっち」 「違う、催促したわけじゃないよ!さっき『私も撮りたかった』とか言っちゃったから、瑞葵ちゃんが先読みして私の欲しそうな写真を出してこないか心配になっただけ!」 「さ、さすがにローアングルはないですね。だって見えちゃいます・・・」 だろうね。さすがにそれはないか。安心しました。 「と、とにかく瑞葵ちゃん。えっちな自撮りで大人をからかっちゃいけません」 「・・・『自撮り』が駄目なら、凪さんにお願いしたら撮ってくれますか?」 「・・・あんまりえっちじゃなければ撮ってあげる。えっちなのは私が我慢できなくなる可能性あるからダメ」 「はーい」 どうやら、話をしている内に瑞葵ちゃんの機嫌も直ってきたようです。これからは時々電話したりしてあげるように気を付けておこう。 「ところで凪さん?今度玄葉さんと一緒にお風呂入る約束してたみたいですけど、私と一緒にお風呂に入った時みたいに写真撮っちゃ駄目ですよ?」 「うん、さすがにそれやったら玄葉に殺されちゃうよ。それに一緒にお風呂と言ってもお互い水着着るようにするし」 もう瑞葵ちゃんがこっちの事情知ってるのにはツッコミを入れない方が良さそうだ。どうせ教えてくれないし。 「入浴シーンが撮りたかったら遠慮しないで私に声かけてくださいね。他の人にお願いしたりしたら、やー、ですよ?」 「自重するよ!」 私は瑞葵ちゃんとの通話を切りました。ずっと話しているとズルズルと沼にはまっていく予感がしていたので。