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包帯瑞葵ちゃん撮り放題
夜道を歩いて家路を急ぎ、霊園周辺を通りかかった時の事でした。 「トリックオアトリートです!」 後ろから誰かが私に抱き付いてきました。この声と、背中に当たる感触から判断するに・・・ 「瑞葵ちゃん?」 「あたりです!」 私が振り向くと、全身包帯でぐるぐる巻きの瑞葵ちゃんが立っていました。体のラインがはっきり出ていてとてもセクシー・・・じゃなくて、寒そうだなあ! 「瑞葵ちゃん、こんな夜に何してるの!女の子が体冷やしちゃダメでしょう!」 「あはは、今日は気温高めだからいけるかなって思ったんですけど・・・くちゅん!」 ああ、やっぱり。私は着ていた上着を瑞葵ちゃんに着せてあげると、瑞葵ちゃんの手を取って歩き出します。 「とりあえず、私の家においで。向日葵ちゃんに連絡して着替えを持ってきてもらうから」 「はーい・・・」 それにしても、瑞葵ちゃんの家からここまでそれなりに距離があるのに、よくこの格好でここまで来れたものです。恥ずかしがり屋のくせに変に大胆なところがあるな。そうだ、玄葉に電話して部屋に暖房を入れておいてもらおう。 私の家に着くと、リビングは暖房でぽかぽかでした。玄葉に頼んでおいて良かったです。玄葉本人は自室に戻っているようでした。人見知りだからなぁ。 「瑞葵ちゃん、大丈夫?これくらいで寒くないかな」 「はい、ありがとうございます」 瑞葵ちゃんに温かいココアを準備してから、私は向日葵ちゃんに電話を入れました。 「はい、早渚さん?向日葵ですけど」 「瑞葵ちゃんがミイラ女の仮装で私に会いにきたんだ。遅い時間で悪いんだけど、瑞葵ちゃんが寒そうだから、着替えを私の家まで届けてくれないかな。往復のタクシー代は私が持つから」 それを聞くと向日葵ちゃんは電話の向こうでため息をつきます。 「妹がご迷惑かけてすみません。普通にハロウィンコーデで可愛く決めていけばいいって言ったのに、頑固なんだから」 「こっちこそごめんね」 向日葵ちゃんが着替えを持ってきてくれる事になったので、私は瑞葵ちゃんのところに戻りました。瑞葵ちゃんは姿勢を正してココアをお行儀よく飲んでいます。 「凪さん、ココアありがとうございます。おいしいトリートですね」 「あはは、今の瑞葵ちゃんにトリックされたら私の方が逮捕されそうだからね」 実際のところ、手をつないで歩いているところを警官に見つかったら職質を受けた可能性はだいぶ高いので、本当に見つからなくてよかったです。瑞葵ちゃんの格好がミイラじゃなければまだ良かったのですが。 「・・・凪さん、そんなに気になりますか?」 「え?」 「さっきから、私の体をじっくり眺めてるので・・・」 いけない、視線が無遠慮すぎたか。瑞葵ちゃんのあられもない姿は割と見ているとはいえ、さすがに失礼でした。 「ご、ごめんね。あんまりエッ・・・じゃなくて、セク・・・でもなくて、可愛かったからついね」 あっぶない。格好がエッチとか指摘したらこっちがセクハラで訴えられる。 「・・・あの、もしよかったら写真撮りますか?」 「え、いいの!」 「は、はい。私も凪さんになら撮って欲しいなぁ、って」 そういう事なら、遠慮なく撮らせてもらいましょう。瑞葵ちゃんにいろいろポーズとかとってもらいながら、向日葵ちゃんが来るまでの間を堪能させてもらいました。 「早渚さん、本当にすみませんでした!ほら、瑞葵も謝る!」 「凪さん、ごめんなさい」 「いや、私のほうこそごちそうさまでした」 瑞葵ちゃんは向日葵ちゃんの持ってきた私服に着替えて、玄関前で向日葵ちゃんともども、私に頭を下げました。と、向日葵ちゃんがタクシーの方を振り向いた隙をついて、私に何か手渡してきます。見るとそれは、丁寧に巻かれた包帯のロールでした。小声で瑞葵ちゃんがささやきます。 「それ、私が巻いてた包帯です。今日の記念に凪さんにあげますね」 「え、ちょっと!?」 瑞葵ちゃんははにかむように笑うと、向日葵ちゃんと一緒にタクシーに乗って帰っていきました。私は手の中の包帯を眺めながら、家に入ります。 「お兄」 「うわあ、玄葉!?」 いつの間にか玄葉が玄関の上がり框(かまち)まで出てきていました。玄葉は私の手の中の包帯をじろりと睨みます。 「それ、どうするつもり?」 「え、ええっと・・・とりあえずジップロックかなって」 「きっしょ」 虫けらを見るような目が私を貫きました。玄葉はその隙に私から包帯を取り上げます。 「これは私が捨てとくから」 「う、うん・・・」 有無を言わせない迫力に、私は頷くしかありませんでした。ま、まあいいか。瑞葵ちゃんの写真はいっぱい撮れたんだし。 ●玄葉の部屋 「お兄ってば、女の人が素肌に巻いてた包帯受け取るとか何考えてるんだか!まったくもう!」 でも、分からなくもないかもしれない。瑞葵っていったっけ、あの子はすごく美少女な上にぐいぐい来るし。お兄は流されやすいからああいう相手にはペースを握られちゃうんだよね。 「・・・ん?こ、この包帯、カモミールの匂いがする。これ、お兄の好きな匂いだ・・・あの瑞葵って子、なんかヤバイんじゃ」 何でお兄の好きな匂い知ってるんだろう。そして何でその匂いを包帯につけてきてるんだろう。・・・あの子、怒らせたらお兄の知り合いの中でも一番何しでかすか分からないかも。怖。 「一応、数日経ってから燃やして捨てよう・・・もしゴミ袋の中に包帯があるの見られたら何が起きるか分かんないし」