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瑞葵ちゃんと撮影デート
ある朝、仕事で山の風景を撮影するために家を出たところ、家の前にめかしこんだ瑞葵ちゃんが待っていました。 「あ、おはようございます、凪さん。奇遇ですね」 人の家の前で待っていて奇遇も何もないでしょうに。 「おはよう、瑞葵ちゃん」 「え・・・名前呼び・・・」 あ、そう言えば口に出して瑞葵ちゃんとは呼んだこと無かったですね。 「ほら、この間お姉さん紹介してもらったから。苗字だとややこしいと思ってさ。嫌ならやめるけ」 「全然嫌じゃないです!」 食い気味に名前呼びOKが出ました。じゃなくて。 「それで、何か用事だったかな。悪いんだけど、今日は仕事で山の風景を撮りに行くからあんまり時間取れないんだ」 「あ・・・あの、その撮影って、私がついていっちゃお邪魔ですか・・・?」 風景撮影だからモデルやスタッフがいる訳ではありませんので、別に邪魔にはならないと思いますが・・・。 「大丈夫だけど、瑞葵ちゃんこそその服で大丈夫?登山ってほどじゃないけど森の中とか歩くよ?」 「大丈夫です、体力は自信ありますし、服はもし何かあってもおねーちゃんが直してくれますから」 慎ましい胸を拳でどんと叩いて瑞葵ちゃんがドヤります。いちいちモーション可愛いな・・・。まあ、そこまでいうならついてきてもらいましょう。その方が楽しそうだし。 「じゃあ、ついてきても良いよ。ただ、風景の時はいいけど、鳥とかを撮るときは言うから、その時は気配を消してね」 「あ、はいっ」 こうして、私と瑞葵ちゃんは連れ立って秋の山へ向かったのでした。 「秋は自然の風景が綺麗ですね」 「そうだね。四季それぞれの良さがあるけど、秋は特に見栄えする写真が撮りやすいかも」 折角なので瑞葵ちゃんにも風景を楽しんでもらおうと思って、望遠鏡と三脚のセットを貸してあげました。山へ向かう道中の臨海公園や展望台、山の中でも湖のほとりや小高い丘などで、瑞葵ちゃんは望遠鏡を覗き込んでは目をきらきらさせています。こんなに興味を持ってもらえると、私も自然と頬が緩むというものです。 「・・・もしかして、凪さんって本当は風景写真の方が得意だったりしますか?」 「どちらかというとそうかな。仕事の選り好みはしないけど、人を撮るよりは神経を使わないし」 「えっと、じゃあ、私を撮りたいとかはあんまり思わないですか・・・?」 「いやそんな事は無いよ。人を撮るのに神経を使うのはその写真に求められる要件を満たさないといけないからって側面が大きいから、いつも瑞葵ちゃんを撮ってるような自然体のスナップは気楽に撮れるし。瑞葵ちゃんは特に写真映えするからね」 改めて瑞葵ちゃんを見ると、実に透明感のある美少女です。ちょっとえっちなところはあるけど、見た目も振る舞いも王道のヒロインですし。 「・・・凪さん、そういうセリフほかの女の子にも言ってそうです」 「そんなことないよー。それよりそろそろお昼にしようか」 「誤魔化すの下手っぴですね・・・」 ハイキングコース沿いに建てられたオープンカフェでお昼を食べていると、瑞葵ちゃんがまた話を振ってきました。 「さっきの話の続きなんですけど・・・凪さんって、私の事・・・好き、ですか?」 コーヒー噴き出すかと思いました。いきなり直球が過ぎる!落ち着いて答えないと・・・。 「瑞葵ちゃんはすごく良い子だし、好感も持てるよ。好きは好きだと思う。ただ、恋愛的な意味でそうかって言われると分からないな・・・」 自分でも実に曖昧な事を言っていると思いますが、瑞葵ちゃんは少し微笑んでから口を開きました。 「私も、凪さんの事が好きかどうか分からないです・・・。良い人だと思いますし、一番仲の良い男性なのは間違いないです。でも、もしかしたら自分の性癖のために利用してるだけなんじゃないかって思ってしまって・・・」 性癖?というと、もしかして。 「私、凪さんにちょっとえっちな格好を撮ってもらうと、すごくドキドキして・・・こ、興奮しちゃうみたいで。でも自分で撮るのは何か違くて、かといって他の男の人だと怖いですし・・・」 「待って待って、瑞葵ちゃん、それお昼時のカフェでする話題じゃないよ」 今止めておかないと、次に何言い出すか分かりません。人目もあるので社会的に死にたくない。 「そ、そうですね。ごめんなさい。えっと、とにかく、私が言いたいのは・・・凪さんとこれからも仲良くしたいなぁ、って」 「そ、そうだね。私も瑞葵ちゃんと仲良しでいたいのは同じだから」 瑞葵ちゃんは優しい目で私を見て微笑みながら、 「いつか、この気持ちの名前が分かるまで。これからもよろしくお願いしますね」 そんな事を口にしました。人目が無かったら抱きしめていたかもしれません。それくらい可愛かったです。 「・・・うん、これからもよろしく、瑞葵ちゃん」 これ、今日撮った写真を見る度に思い出してしまいそうだな・・・。