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教師と食事と友達と
「うん、どうした?シルビア?そのいでたちは」 賢者の学院の校庭で、ゴルドンはシルビアに話しかける。 普段は東方風のローブ姿が多いシルビアだが、今日は珍しく、ピッタリとしたスーツに身を包んでいる。 「ダキニラですよ。あの子、また微妙な悪さして下町をうろちょろしているみたいだからね。”編集長”とやらにビシっと話を付けないと思って」 普段のローブ姿よりも、若干年長に見え、いかにも厳格なスーツ姿だが。 「我も、帯同したほうが良いか?」 ダキニラは、賢者の学園の准導師シルビアと、体術教官ゴルドンの、父親違いの妹だ。 新聞社を騙る、盗賊ギルドの周辺で、巫女だか盗賊だか、新聞記者だかで元気に飛び回っているらしい。 「大丈夫ですよ。お兄様、なんだかんだ言ってあの子には甘いし」 「ぬう~、本来は母者の役目なのだろうが・・・・・・」 とそこに・・・・・・・。 「うん、なんだ、シルビア、その格好は。学芸会か?」 ピキッ!! 「アーゼリン生徒!!授業中でしょ!!とっとと教室に戻りなさい!!」 「やれやれ、恐ろしい先生だ・・・・・・」 ・・・・・・。 「あれに任せられると思いますか?」 なぜだか学生、それも一年生の制服をきた母親を追っ払ったシルビアはため息をつく。 「・・・・・・、人にはそれぞれ、役割があるものだ」 ゴルドンも、しみじみとつぶやくのだった。 「さて、あの狐っこはどこで悪さしているかしら・・・・・・」 そのころ・・・・・・。 「ほら、リリスちゃん!!笑顔だよ笑顔!! みんなを幸せにしたら、自分も幸せになれるよ!!」 ダキニラは、狐耳をピコピコ揺らしながら、満面の笑顔を浮かべていた。 (くっ、くそ!!なんであたいがこんな真似を) 似合わない学生服の上に、これまた似合わない可愛いエプロンを身に着けたリリスは、 ひきつった笑みを浮かべて接客する。 こじゃれたカフェレストランの、モーニングタイムだ。 (暗黒神のプリーストが、人を幸せにするかっての) 「はーい、リリスちゃん、モーニングセット上がったよ。3番テーブルに持って行って」 (ちっ、ちくしょう、こき使いやがって) 緑髪をポニーテールにしたドワーフの料理人にさらに皿を押し付けられる。 (朝からこんな仕事させんじゃねーよ) 普段から不摂生なやさぐれた生活を送っているリリスは、ぐったり疲れ果てて椅子に座り込む。 「手伝ってくれてありがとうね。手が足りないから助かったよ」 そう言って、テーブルの前に賄を置くドワーフ少女。 「あっ、ああ・・・・・・」 (そういえばこの頃まともな飯食ってなかったか) 『主さんよ。ありがとよ』 リリスは軽く手を合わせて何かを呟く (ダキニラ、あの子はまだ見込みがあるよ 人間、美味しい食事の前では嘘が付けないんだよ) 少し涙ぐみながら賄を食べるハーフエルフの少女を見て、ドワーフの暴食巫女は呟いた。 美食と、平和、そして戦争を司る、デリシア神に仕えるチェルキーは、食事の何たるかをよく心得ていた。 そして、いかなる神に仕えるプリーストも、食事の前には必ず祈りを捧げることを。