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風の剣士と夜景の魔女
「その辺にしといたら? 彼女、どう見たって嫌がってるじゃない」 凛と徹る澄んだ声が路地裏に響き渡り、目の前の男たちが一斉に振り向いた。 歳の頃は十四、五といったところだろうか。未だ少女と呼んで差し支えない、あどけなさの残る顔立ち。短く切り揃えた髪は黒瑪瑙のように艶やかな漆黒で、同じ色をした瞳の奥に燃えているのは、目映いばかりの意志の光だ。 伸びやかな手足を包む筒袖の衣は鮮やかな瑠璃色をしており、要所を革でできた胸当てと籠手で鎧(よろ)っている。そして、腰の剣帯に吊るされた朱塗りの鞘は、三日月を思わせる緩やかな曲線を描いていた。 その姿は、まさしく威風堂々。不敵な笑みを浮かべて佇む彼女の姿は、幼くも剣客と呼ぶに相応しい風格と気迫を兼ね備えていた。