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(女)王様火消し
「火事だ!!」 「消防を!!」 町の中、火の手が上がり、怒声と鐘の音が響き渡る。 石造りの町は、炎には強いはずだが、それでも可燃物は存在するので、火災は普通に発生する。 魔動機は市井にも広がりつつあるとはいえ、まだ直火に置き換わるほどでもない。 そこかしこから、火災を鎮めるべく消防士と、消火機材を搭載した馬車や、魔道車が集まってくる。 消火用の魔法は存在し、魔動機も存在するが、古来から存在する原始的だが確実で信頼のおける方法、水を用いた消火が一般的だ。 魔法の使い手は限られるし、魔動機をそれなりにコストがかかる。 水源が確保されているのならば、水を用いるのが確実で効率も良い。 なのだが。 「やけに、火の回りが早いぞ!!」 水が通用しない、あるいは使ってはいけない火災の場合もある。 「消火魔法を使用する!!用意を!!」 数が限られた魔法消防士が進み出て、詠唱を開始し、魔法陣が形成される。 水か氷か。炎と相反するらしき魔法が炎を鎮めようとするが……。 「だっ!!だめだ。妨害されている!!」 炎がまるで意思を持つかのように踊り狂い、氷の魔法を打ち払った。 何らかの魔法で強化された炎だったらしい。 ここで抑えきれなかったら、市街地全体に炎が燃え移る。 「予に任せよ……」 だが、そこに若々しい、だた不思議な威厳を感じさせる女性の声が響き渡る。 『Heaven of Cocytus(氷獄の楽園)』 次の瞬間、炎すべてを覆いつくすように巨大な氷の結晶が現れる。 余波で市街の石畳も白い氷に包まれる。 魔法で増強された炎は、同じく魔法で形成された氷塊によって宥められ治まっていく。 「女王陛下!!」 消防服、それも豪奢なドレスを模した衣装をまとい、王冠を思わせる鉄兜を被っているのは、この国の、若く美しい女王陛下その人だった。 「陛下!!なぜここに!!」 消防隊の隊長が、敬礼もそこそこに女王に詰め寄る。 「予は王軍の長ぞ」 事実、王立軍は王が直率するために設立されたのが始まりだ。 「しかし、危険です」 だが、王のためにある軍が、王を危険をさらすわけにもいかない。 「このようなときに働かずしてなんとする。戦も、治安も我らの手から離れておるのだ」 その通りでもあった。 国家としての軍は、議会の指揮下にある国立軍が存在しており、こちらに王権は介入できない。 治安維持や警察権は、国立軍とも王軍とも違う、衛兵隊が握っている。 だが、消防活動と災害対策は、国軍と衛兵隊の手に余っていた。 そこに、存在意義を問われることになった王軍が手を伸ばした。 結果、王軍の兵士は消防士を兼ねることになり、国軍と衛兵隊との住み分けが行われることになった。 火事場は、王軍にとっての戦場でもあった。 (もっとも、奪われているのは、政(まつりごと)もだがな) 女王にして、消防士の長は、自嘲気味に心の中でつぶやいた。